683.1番良い選択と帰宅
「これでラビちゃんから受けた依頼は完了ね」
「ええ、ありがとう」
ミルティアさんから差し出されたブローチと、くすんだ色になった魔石を受け取り、お礼を伝える。
ちなみにキャスちゃんは、私の頭の上で腹ばいになって爆睡中。
私とキャスちゃんの魂は、既に繋がっている。
繋がっているというよりも、キャスちゃんの魂が私に絡みついている状態みたい。
私に魂を視る力はないから、視界で捉えているわけではないけれど。
お兄様の目なら、何かしら視えるかもしれない。
キャスちゃんの魂が主で絡みつく形だからか、私よりもキャスちゃんの方が疲弊している。
起きる気配がない。
今ならちょっぴり、ほんのちょっぴりだけ腹毛を吸ってもバレないのでは?
なんて誘惑と、ずーっと戦っている。
そろそろ本能が勝ちそう……。
気力と注意を総動員し、今受け取ったばかりのブローチに意識を集中する。
このブローチは、初代ロベニア国王が、ヒュシスに贈ったアイリスのカメオブローチを模して、私が作ったの。
大元のブローチはヒュシスの子孫が代々受け継ぎ、巡り巡って私の手元に来た。
リドゥール国から、ロベニア国へ戻る前の事だった。
私の正体に気づいたベルシュリーが、私に譲ると決めたのだけれど、これもご縁というやつね。
遠慮なく使おうと思ったものの、ブローチは何百年も前に作られた年代物。
籠められていたであろう聖獣の力は、かなり薄まっていた。
そこでブローチに使われていた素材の一部と、私と契約する全ての聖獣ちゃん達の毛や鬣、鱗等々を合わせ、新たなブローチとして作り直す事にした。
お兄様だけでなく、お祖父様にもお願いして、出来上がったブローチに2人の瞳の力を使ってもらった。
お陰で旧ブローチに僅かに残っていた、初代ロベニア国王と契約していた聖獣ちゃん達の力は、新たなブローチへと移せたわ。
その上で、新しいブローチには細工をした。
そのせいで倒れてしまい、特にお兄様とキャスちゃんには多大な心配をさせてしまったわ。
ちなみに、ここまでが下準備。
ここからは、お兄様とリリに見つけてもらった、ヒュシスがヴェヌシスに贈った魔石の出番。
当初はお兄様とお祖父様の力を、もう1度借りようと考えていた。
2人の瞳の力があれば、1番に近い、最善の選択ができる。
けれどタイミング良く、狒々の血を被ったミルティアさんが現れた。
だからこれから取る方法が、1番良い選択となる。
これもまた、ご縁というやつね。
「ところでラビちゃん?
カインに何か力を貸したようね?
2人して、何を企んでいるの?
やっとカインがヴァミリアの亜空間収納から出てきたと思ったら、ラビちゃんがプレゼントしたっていう箱を持って、私を置いて帰宅してしまったわ。
浮気でもするつもり?
帰る前にラビちゃんのお兄さんと、何か話すと言っていたけど、まさか綺麗な顔のお兄さんでも、お持ち帰りしたかった?」
ほんのり頰を膨らませるミルティアさんは、何だか不服そう。
いつもはカインさんの方が、ミルティアさんから離れようとしないらしいわ。
いつもと違うシチュエーションに、戸惑っているのね。
「ふふふ、安心して。
カインさんは確かに、お兄様に何かシンパシーを感じていたよう。
けれどリアちゃんの亜空間収納にあった、BとLなるR18小説に、全く興味を示していなかったと聞いたわ。
もちろんカインさんとの約束があるから、何をナニ方面に協力したかは、秘密よ。
けれど全てはミルティアさんを、カインさんの秘めたる闇墜ちねっとりな魅力で、主に体を魅了したいが為。
先に帰ったのも、ミルティアさんとしっかりじっくりお家時間を取る為に、冒険者ギルドの報告をさっさと済ませる意図もあるようだし」
「確かに、ラビちゃんの依頼をこなしたら、ギルドへ寄らず、真っ直ぐ帰宅するよう言われたけれど……」
「私の見立てでは、ミルティアさんを過去一、愛欲の虜にしてしまうはずよ。
ミルティアさんも、私の依頼を2つも同時進行したせいで、実はかなりの魔力と気力を消耗させてしまったでしょう?」
「気づいていたのね」
「もちろんよ。
亜空間収納で魔力暴走させるよりはマシ、程度にはお疲れのはず。
その上、ミルティアさんはカインさんとの愛欲空間まで、転移して帰るようカインさんにお願いされているのだもの。
熟腐腐、帰ったらカインさんにされるがままね。
ミルティアさんは、愛を何度もSとM的に確信させられるの……ああ、想像が掻き立てられるわぁ。
今の不服可愛らしいお顔が、満足度マックスの艶可愛いお顔になるに違いない……」
「どうしてかしら?
要はカインに全力で愛されろと言われているはずなのに、不穏?
念の為、お花ちゃんとクロちゃんに護衛を……」
「あ、可愛らしい竜達は、うちの竜親子と意気投合して、蠱毒の箱庭で接待を受けるから、暫く帰らないようよ?」
少し前、ラグちゃんから念話で貰った言伝を伝える。
「……そう」
「今回の依頼料は、既にカインさんに渡してあるの。
安心して、帰宅なさって。
そうそう、これ、お弁当。
精がつきそうな料理を、これでもかと詰めこんだから、カインさんと食べて」
「……ありがとう?
何だか腑に落ちないけど、カインが待っているから帰るわ。
また近々、会いましょう」
「ええ、近々」
腑に落ちないお顔ながら、結局ミルティアさんもカインさんに会いたがっているのね。
私に手を振りながら、転移魔法で一瞬にして帰宅した。