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682.ストーカーモンスター

「それじゃあ、いいのね?」


 私とキャスちゃんをひたと見つめたミルティアさんが、最終確認をする。


 とある森にいるのは、私達3人だけ。


「わかってるでしょうけど、キャスケットの魂をラビちゃんの魂に結びつければ、ラビちゃんの方から結びを解く事は不可能になる。

肉体が死んでも、ラビちゃんの魂が消滅しない限り、キャスケットはラビちゃんと共に肉体が死に、ラビちゃんの転生と共に、どこかで転生を果たす。

魂レベルのストーカーモンスターになっちゃうわよ?」

「ふふふ、願ったり叶ったりね」


 キャスちゃんが、ストーカーモンスターだなんて!

それも魂レベル!


 一昨日からキャスちゃんは、どうしてか私をずっと警戒していて、寂しい思いをしていたわ。

現れる時は、必ず頭頂部を陣取って、それとなく私の髪を握りしめている。

それも腹ばいで。


 ちなみに今もそう。


 もちろん、これはこれで頭頂部に感じる柔らかなお肉とモフモフのハーモニーで幸せよ。


 けれどやっぱり、1日に1度は顔を見たいじゃない。


「それからキャスケット。

この魔法を行使すれば、ラビちゃんの魂が消滅する時、あなたの魂も同時に消滅するわ。

例えばどこかの時点で、あなたがラビちゃんに愛想を尽かし、結びを解いていたとしてもよ。

今世で魂を結ぶ代償だから、共に魂が消滅する事から逃げるのは不可能になる」

「わかってる。

それで、ううん、それがいいんだ」


 即答したキャスちゃんは、更に続ける。


「僕はベルが死んだ時、戻ってくるって言ったベルの言葉だけが希望だった。

でも何十年もずっと、本当はベルと2度と会えないかもしれないって絶望してたよ」

「キャスちゃん…」

「ちょっ、いきなり上を向かないでよ。

落ちちゃう」

「あらあら、ついうっかり。

キャスちゃんのお顔を見たくなっただけよ」

「ラビ……ムムッ。

だからって僕を騙し討ちにして腹吸いしたラビのワキワキさせた腕に、僕が簡単に飛びこむなんて思わないで!」

「まあまあ、あれは不可抗力なのよ?

とっても反省しているわ。

今だって頭頂部から心の琴線に押し寄せるパッションを、必死に抑えているのに……」

「ふんっ、自業自得だからね」

「ねえ、やっぱり止めておく?」


 未だにご立腹な様子のキャスちゃんと、そんなキャスちゃんにしょげる私を見たからか。


 ミルティアさんが、中止を提案する。


「それとこれとは別だから。

ラビと一緒に肉体の死を迎えて、また一緒に生まれ変われるなら、ベルの時みたいな絶望感を、もう感じなくて済む。

僕の腹肉と腹毛を荒らされる危機感は、魂が続く限り感じるだろうけど、不安な気持ちで待つよりずっと……うーん……ちょっと……うーん……僅差でマシ」


 そ、そんな!?

僅差なの!?


「そう。

最後にもう一つ念を押しておくけど、カインが説明したように、私ががこの力を持っている事は秘匿とし、魔法で誓約してもらうわ。

ラビちゃんとキャスケット。

どちらか片方でも破れば、即死するタイプの誓約だから、秘匿するのにも覚悟が必要よ?」


 ガーンとショックを受けた私の心情に気づかないミルティアさんが、念を押す。


「「もちろん」」


 今度は私も一緒にキャスちゃんと即答した。


 ミルティアさんがこんな魔法を使えると知られれば、何かしら利用しようと企む人間は大勢出てくるはず。


 今から行う魔法は狒々の生き血を被った者だけが行使できる、古代魔法の中でも当時の魔法師によって禁術指定された、現代的には完全にロストマジック扱いとなる魔法だ。


 ベルジャンヌだった私に魔法を教えたのがピヴィエラでなければ、きっと人類の誰も知らずにいた魔法になる。


 最も、ただの狒々の生き血を被れば良いという話でもない。


 災害(S)級に近いレベルに、狒々自体が体内の魔力を蓄えた状態になっていないと、効果がない。


 更にこの魔法は使う側、使われる側の双方にも災害(S)級の魔力が必要となる。


 つまりミルティアさんも、私も、キャスちゃんも、全員揃ってS級の魔力持ちだから実現可能な魔法。


 もし禁術指定したとしても、魔法を完遂できる確率は限りなく低い。


 それでも実力不足な人間が、一か八かにかけて魔法を行使すると、全員が魔力暴走を起こし、周囲に甚大な被害を及ぼす。


 それ故に、古代の人達は禁術指定していたのかもしれない。


 いつの時代でも、どんな関係性でも、心を寄せる人と来世でも共にいたいと望む気持ちは、世界のどこかに必ず存在している。


 藁にも縋る気持で、やってみようとする人間もいるでしょうから。

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