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681.広い意味での家族愛

「と、とにかく!

僕は初代国王のやった事を考えたら、アヴォイドが望んだように、ヒュシスの想いを伝えた上で、アヴォイド諸共消滅させるので良かったと思う!」


 キャスちゃんの言う通りよ。


 アヴォイドが求めていたのは、ヒュシスの想いを伝える事で、自らの主である初代国王に正気を取り戻させた上で、楽にしてやる(消滅させる)事だったのだから。


 気を取り直したキャスちゃんの言葉に、つい苦笑してしまう。


 名を封じられた彼(初代国王)は、守るべき家族がいたから戦乱の世に平和をもたらそうと尽力した。


 なのにその家族はいがみ合い、やっと会えた双子の姉だけでなく、苦楽を共にしたはずの血縁である自分すら、殺そうとした。


 他ならぬ彼の家族が、彼との縁を最悪な形で絶ち切るのだから、彼が味わった絶望感は計り知れなかったでしょうね。


 |心を預ける家族を知らず《ベルジャンヌとして》、そして心許せる家族を知って(月和として)生き、|心許せた家族を取り上げられて《ラビアンジェとして》転生したからこそ、私には彼の苦しみが心から理解できる。


「そうねえ……その方法でもアヴォイドは納得したでしょうね。

けれどキャスちゃん?

それならどうして、私が亜空間収納で魔力暴走させるのを、本当の意味で止めなかったの?」

「それは……」


 口ごもるキャスちゃんだって、本当はわかっている。


 キャスちゃんをはじめ、私と契約する聖獣ちゃん達は私の記憶から、私の前世である月和(つきな)の生涯を視た。


 その上で私が前世の旦那さん(影虎)や他の家族と、未来永劫に縁が切れた事で、どれだけ絶望したか理解していた。


 私との距離がベルジャンヌの時より近いのも、当初は聖獣ちゃん達なりに私を気遣っていたからのはずよ。

もちろん今は、この距離が聖獣ちゃん達にとって心地良いと感じてはくれているけれど。


「私がこれからする事に、本当は理解しているってわかっているわ。

もちろん、その上で私の身を心配してくれている事もよ」


 両手をそっと広げて、待つ。


「ねえ、キャスちゃん。

初代国王は家族を守る喜びも、家族を失う喪失感も知っているわ。

家族に裏切られる痛みもね」


 どこか警戒したようにしつつも、私の腕にそっと入りこむキャスちゃんの脇に手を入れ、自分の目線まで抱き上げる。


「ベルジャンヌもラビアンジェも、王家の血が流れているから、ある意味私は彼の家族じゃないかしら」

「かなり広い意味でならね。

どれだけ血が薄まってると思ってるの」

「そこはほら、血の繋がりだけが家族じゃないっていう、どこか懐かしの人情ドラマのセリフを都合良く引用するわ」


 クスクスと笑う。


 すると私の笑いが腕に伝わって……あらあら、白い毛の奥に隠れる柔らかな腹肉が、小さく揺れて……。


「ラビ?

身の毛がよだつ鼻の下の伸ばし方しないで」

「まあまあ、ついうっかりと。

冗談だから、警戒しないで?

ほら、だからね、キャスちゃん」


 気力を総動員し、やや下に向いた視線を戻して鼻の下を縮めつつ、再びキャスちゃんと視線を交わす。


「彼の家族である私が先に、彼を信用してみようと思うの。

都合良く、狒々の血を被ったミルティアさんとも知り合えたから、当初の予定より楽に事を進められるわ。

ミルティアさんの旦那さんであるカインさんも取りこめたし、色々とS級冒険者の実情も知れたから、キャスちゃん達が私に望んでくれた事を、憂いなく実行できる。

きっと、いえ、絶対、もっともっとラビアンジェの人生は楽しくなるわ」

「2度と僕を置いてかないよね?」


 クッ……どことなく縋るような眼差しの、このつぶらな瞳の破壊力よ!


 これ、誘われてる?

いいえ、駄目よラビアンジェ!

今は真剣に想いを伝える時!


 ともすれば荒くなりそうな呼吸を、気力で抑える。


「もちろんよ。

寿命で今世を終えても、私達は共に在るわ。

これもミルティアさんのお陰ね。

カインさんが許可すれば、という縛りがあるけれど、既にリベートを……んんっ」

「リベート?」


 おっと、リアちゃん御用達の小さな亜空間収納図書室の事も、ガッツリR18指定の本を執筆しているのも、SとMなる小道具を製作しているのも、キャスちゃんには秘密だったわ。


 リアちゃんと隊長夫妻、更に今はピケルアーラの協力の下、キャスちゃんとディア、ラグちゃんには秘密にできている。


「言い間違っただけよ。

カインさんも協力してくれるはずだから、魂が続く限り、キャスちゃんと離れる事は2度とないわ。

キャスちゃんが望む限り、ずっと一緒にいましょう」

「うん!

僕は今世のラビとも、来世のラビとも、絶対に離れない!」


 ああ……顔を輝かせるキャスちゃんの……なんて……なんて……。


「素敵な白モフ腹肉ー!」

「ギャー!

変態ー!

食われるー!

違う、食われたー!」

「ズヌォー……ブヴァー……ズヌォー……」

「ヒィィィ……」


 翌日から暫く、邸では使用人達の間に、とある噂話が蔓延したとか。


 ロブール邸の滅多に使われない公女の私室から、深夜に奇怪な音と悲鳴がした。

原因究明しようとしたのか、意を決したかのような顔で部屋に入ったロブール家次期当主は、顔色を悪くして、まるで心底何かにドン引きしたかのような顔で、部屋から出てきた。

きっと公女の部屋には、想像を絶する亡霊が出たに違いない、と。


ご覧いただき、ありがとうございます。

今回はシリアスなラビ&キャスちゃんの愛がテーマだったのに……(;・д・)ナンデ?

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