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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中
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655.恋愛観とパートナー~モニカ先代王妃

「いらっしゃい、モニカ。

あなたの可愛い甥孫(せいそん)が、顔を見せに来たのでしょう」


 ウォートンからトワの新刊を受け取った日の夕方。


 そう言って、呼び出した私の手元を見ながら、人払いした自室に招いたのはブランジュ。


 私とブランジュは、四大公爵家の公女として、ロベニア国の王妃として、今は先代王妃と王太后として、長い人生を共に歩んだ。


 私にとってのブランジュは、人生のパートナー。

昔から……そう、もうずっと昔から……。


「座ってちょうだい。

トワの新作が出たのでしょう」


 いつものソファに私が腰掛けた直後、ソワソワした様子でブランジュが私に尋ねる。


 朱色の瞳は、もうずっと私が手にするトワの新巻()に釘づけね。


 思わず唇が孤を描くのを、自分でも感じる。


 そんなブランジュの表情は、ベルジャンヌ王女が亡くなり、王妃となってから冷たく強張っていた。


 ジルガリムが国王に即位し、ソフィニカが王妃となった事で、名実共に表舞台から降りた後も、ブランジュが感情を見せる事はなかった。


 それがトワの小説を読むようになって、こんな風に柔らかくなるなんて。


「妬けるわね」

「え?」


 思わず小さく漏らすも、ブランジュには聞こえなかったらしい。

軽く首を傾げている。


 ブランジュがこんな風に、無防備な仕草が増えてきたのも喜ばしい。


 同時に、顔も知らない作家(トワ)に、年甲斐もなく嫉妬を覚えてしまう。


 長年連れ添った私では守れなかった、ブランジュの心の余裕(柔らかな心)


 トワの小説はそんなブランジュに、心を取り戻させた。


 ベルジャンヌ王女が亡くなった後。

王太子だったエビアスは、悪魔を宿した後遺症のせいか、魔力を消失させた。

更に精神を病み、人の目を極端に恐れるようになった。


 そのせいで操り人形としても、使い物にならなくなった。


 ブランジュが予定より早く、エビアスに嫁ぐ事が決まった原因。


 ベルジャンヌ王女が目の前で灰になった事で、絶望の淵にいた私は、そのお陰で気持ちを立て直す事ができた。


「何でもないわ。

そうよ

持つべきなのは、趣味仲間の甥孫ね」


 言いながら、テーブルの上にそっと本を置く。


 途端、ブランジュの表情から、落胆が見て取れた。


「ウォートンには頭が上がらないわ。

けれどモニカのように、百合シリーズには興味が持てないのよ」


 知っている。

ブランジュの恋愛観は、実生活でも趣味の範囲でも、いわゆるノーマル。


 ()()()()()とは、根本的に違うもの。


「そう言うブランジュは、いつも男女の恋愛物ばかり。

たまには百合の小説を読んで、楽しんでみてもいいんじゃないかしら」


 ブランジュへの想いは、私の二度目の恋。

そして数十年来の片想いでもある。


 そんな私の初恋は、ベルジャンヌ王女。

けれど、あの想いが初恋だと気づいたのは、ベルジャンヌ王女が灰になった直後。


 喪って、初めて気づいた初恋だった。


 ベルジャンヌ王女への関心と独占欲は、妹に対するような感情だと、ずっと思いこんでいた。


 もしもあの頃、トワの百合小説が存在していれば、もっと早く自分に芽生えていた初恋に気づけたかもしれない。


 とは言え、今さらブランジュが、私の想いに応えるなんて思っていない。

気づいて欲しいわけでもない。


 ただ少しは私の、秘めた恋愛観に染まらないかと、トワの百合シリーズが発売される度、いつも誘ってしまう。


「女性同士の恋愛観にも、百合シリーズにも、偏見はないのよ。

ただ心惹かれるのは、やっぱり男女の恋愛模様を描いた作品なの。

特に女性が男性を調教、んんっ、陥落させるような」


 今、調教って言いかけたわね。


 確か最近になって、販売規制が入りそうな小説が、一部の成人した淑女達の間で、密かなブームになっているわ。


 特にそのジャンルでは、先駆者的な作品があると、私に長年使える侍女長が言っていた。

その小説には、必ず【虎和】というロゴが使われているとか。


 【虎和】作品には大奥シリーズの他、調教シリーズというものが……まさかブランジュ……いえ、何でもないわ。


「ジェシティナは薔薇派だけれど、エメアロルは百合派よ。

エメアロルと百合の話に、花を咲かせてみてはどう?」


 それとなく私の趣味を、エメアロルに押しつけるブランジュ。


 エメアロルだけでなく、今の王家と私に血の繋がりはない。


 けれど私は、少なくとも今の王家直系の王族達を、実の息子や孫のように感じている。


 ブランジュの血を引いているから、というのももちろんある。


 けれど1番の理由は、ジルガリムと私の生んだ息子達が、私の研究によって誕生したからだろう。

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