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654.ニルティ家の血筋〜モニカ先代王妃side

「入るように伝えなさい」


 私が公女だった頃から、私つきの専属侍女として仕えてくれる侍女長に、静かに指示を出す。


 頷いた侍女長が案内したのは、私と同じ瞳をした……。


「モニカ先代王妃陛下。

ウォートン=ニルティがご挨拶を……」

「ウォートン、畏まった挨拶は不要よ。

そこへ座って」


 私の弟の孫であるウォートンは、ニルティ家次期当主。

現役の王妃ではなくなった私とは、個人的な親交を持っている。


 ウォートンは、とあるタイミングで必ず私の下を訪れる。

そう約束をしていた。


「それより、持って来てくれたかしら?」


 椅子に腰かけたウォートンに、気安く話しかければ、目の前から上機嫌な笑みが返ってくる。


「やあやあ、大伯母上。

もちろん朝から並んで__」


 そう言いながら、ウォートンは鞄から出した1冊の書籍をテーブルに置いた。


「さあ、どうです!

今日発売したトワの新作は【亡国王妃が奏でる百合の旋律〜初恋の妹と生涯の想い人】第2巻!

大伯母上が待ち望んだ1年ぶりのシリーズですよ!」

「……ああっ……やっと……」


 ウォートンの言葉を聞き、本のタイトルを見て、感激のあまり、無意識に両手を口元に当てて言葉を漏らす。


 すぐにテーブルに差し出されている本へと、手を伸ばした。


 その時だ。

ウォートンが、そっと本の上に手を置いて、自分の方へ僅かに引き寄せた。


「やあやあ、変身魔法で外見を変えて早朝から並ぶのは、とても……ええ、とーっても大変でしたよ。

その上、小説に挿絵がついた頃から、トワの小説は更に品薄状態となりました。

特に新巻発売に当たっては、発売日三日前に、新聞の隅に小さく書かれて公表されるだけに留めているにもかかわらず、夜更けから発売所に向かっても、既に数十人が並んでいるのです。

ここ半年あたりからは、魔力識別できる魔法具も使って、1人3冊までしか購入できない制限ができましたからね。

本来なら私が購入したトワの小説は、自分が読む用、汚損した時用、飾る用としているんですよ。

しかし敬愛する大伯母上からの、頼まれ事だ。

汚損した時用を、涙を飲んで、特別に、お譲り、しているんですよ」


 先代とはいえ、王妃であった私に、あからさまかつ恩着せがましいアピールをするウォートン。


 けれどウォートンは相変わらず、ニルティ家らしい性格をしている。

そう思うとこの不遜な態度も、むしろ可愛らしくすら感じてしまう。


 私と同じように最小限の労力で、欲しい物を確実に手に入れる強かさは、自分に流れるニルティ家の血を感じさせるからでしょうね。


「ふふふ、わかっているわ、可愛いウォートン。

魔法具で魔力識別するようになったせいで、王家の影もニルティ家の影も使えなくなってしまったもの。

かと言って、私は立場上並べないし、転売ヤーなる不届き者への対策だと言われれば、魔法具を用いるなと命令もできない。

ウォートンには感謝しているのよ。

その証に、あなたの父親であるニルティ家当主には、あなたの望む通り、当主交代を遅らせるよう命じ続けているでしょう」

「はっはっはっ、お優しく理解ある大伯母上様。

今後もどうか、このウォートンを孫だと思ってお願いして下さいね」


 本からそっと手を離したウォートンは、調子が良い事を言ってから、席を立った。


 随分昔から、ウォートンは当主となるのを先延ばししている。


 理由は、つまらなくなるから。


 当主になってしまえば、これまで通り同い年のレジルス第1王子と過ごす事はできない。


 冒険者として時折、年下のミハイル=ロブールも交えたチームを組んで、憂さ晴らしをする事がままらなくなる。


 ウォートンは、自分がやりたい事の延長線に、ニルティ家当主就任があるなら、許せる。


 けれどやりたい事を阻害する、ニルティ家当主就任となれば、許せない。


 私が王妃となったのと、ウォートンが常に選ぶ行動原理は、きっと同じ。

そしてニルティ家の血筋らしい行動を、これからもウォートンは取るのでしょうね。


 私と同じように。

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