表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

664/665

653.自由〜学園長side

「父上……私は、父上が王立学園の学園長になると聞いた時、先代王妃であるモニカ様に頼まれたからだと思っていました。

そして父上が市井にいた頃の、ベルジャンヌ王女との関係を伺った後は、王女への贖罪からだとばかり……」


 父親として初めて、息子に自由を望む気持ちを吐露した儂へ、ダリオが遠慮がちに告げた。


「そうじゃな。

初めも、もちろん今も儂は、ベルへの贖罪の気持ちを忘れた事はない」


 そう、儂はベルに助けられ、そしてベルの人柄を知っておった。

王女としてのベルが、どうして死んだのかも、聞かされておった。


 じゃが儂はアッシェ家当主として、ベルに悪女の汚名を着せた者の1人。


 儂自身が直接そうせずとも、先々代国王であるオルバンスと、先々代のニルティ・ベリード両公爵が着せた汚名を、儂はあえて放置した。

言わば、共犯じゃ。


 そしてそう自覚しておるのは、儂とそう時期を違えずに当主となった、他の四大公爵家当主達も、その後に代を代わった当主達も同じ。


 まあ今のロブール公爵だけは……魔法馬鹿じゃしな。

興味のない事には、とことん興味がない、()()ロブールじゃ。

何十年も前に死んだベルの事など、何も考えてはおらんじゃろう。


「もちろん父上が王女へ抱く気持ちは、疑っておりません。

しかし王族の護衛任務ではなく、父親として、私の長男の入学式で学園長として生きる父上を、初めて正面から見て、更に次男、そして放逐したヘインズと続き、見続けた父上の表情は、少しずつ変わってきていると、お気づきですか?」

「変わった?」

「はい。

父上の目に、徐々に生気が宿り始めたと言うべきでしょうか」


 ダリオの息子達__つまり儂の孫じゃが、孫は3人おる。

孫は3人共、良きにしろ悪きにしろ、義理堅い性格に育ったと思う。 


 上の孫2人は、父親のダリオより、視野が広い。

騎士家系のアッシェ家からはみ出した、どちらかと言えば騎士や政治とは距離を置きたい、芸術家気質とでも言うべきか。


 もちろんダリオは上の2人を、どちらが当主となっても困らないだけの教育は、施しておる。

家の存続と内政処理能力について、申し分ない能力を備えておる。


 じゃが末の孫である、ヘインズは……。


 今は考え方に、随分と柔軟性が出ておるようじゃ。

しかし少なくともヘインズは、4年生の初めまでは、悪い意味での身分社会と王族主義に、思想を支配されておった。


 ひとえに、ヘインズの担任を4年間務めた、A組の担任教師も悪い。


 教師という職は、ロベニア国においては特殊じゃ。


 身分社会に加え、学園が王立である事も一役買い、昔から過剰な選民思想を持つ者が、教師に多かった。


 儂が学園長となり、徐々に教師を正していく中、当時は学生だった者達が、教師となって学園に戻る頃。

ようやく学園内の風紀が、儂の思う、良き方へと変わってきた。


 そう思っておった矢先に、第2王子と婚約していたロブール公女が入学して、再び風紀が乱れ始めた。

正直、これは計算外の事態じゃった。


 レジルス第1王子の卒業までは、開かれた学園へと近づいてきたと思っておったのに……。


 それにしても……公女が相手を泳がせて自滅を誘うばかりか、更に相手が自分に噛みついてきた際には、力技でねじ伏せる様。


 ベルのようじゃと思った。

もちろんこの事は胸に秘めるに止めたが。


 もっとも、ベルは公女と違って、魔力が豊富。

武への実力も年々、上げておった。

他者が噛みついてくれば、言葉そのままの、純然たる力技でねじ伏せるタイプじゃ。


 対して公女は、魔力が少なく、ベルのような武力行使は不可能。


 公女の方は、ベルよりは使える微々たる権力と、高い知力を合わせた方面での、力技じゃったが。


 しかし儂の目に生気が宿っておるようなら、今後は自重せねばならん。


 儂が学園の風紀を変える事に囚われ、公女の力技に頼ったせいで、心のどこかでラビアンジェ=ロブールは四大公爵家の公女なのじゃからと、公女としての役目を求めたせいで、下手をすれば年端もいかん公女が、ベルの二の舞いになっておった。


 儂が今の学園長という職に生きがいを感じるなど、あってはならん。

これではベルへの贖罪になっておらん。


「父上の気持ちを推し量る事は、私にはできません。

しかしベルジャンヌ王女が亡くなってから、もう何十年と経っている。

私もまた、父上が自由に生きる事を、ベルジャンヌ王女の枷から、父上が自由になる事を…………」


 言いかけて、ダリオが口を噤む。


 他ならぬ儂が、ダリオの言う枷から自由になる事を望んでおらんと、誰よりも理解しておるからじゃろう。


「いえ、何でもありません。

王女が亡くなる間際に、聖獣キャスケットへ告げた言葉。

戻って来ると言った言葉通り、戻ってきたなら……その時こそ、父上は自由になれますか?」

「そう、じゃな……。

もしもベルが儂にそう望むなら……」


 あり得ん話じゃが、もしもベルが儂の前に現れたなら。

もしも儂がベルを悪女にした事を知り、それでも好きに生きろと言ってくれたなら……このまま学園長として生きても、違う道を歩んでも、今より心は軽くなるに違いない。

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

中途半端に感じられる方もいるかもしれませんが、これにて学園長視点は終わりです。

迷って何度か書き直しをしていたのですが、現状で学園長側の不完全燃焼感を完全燃焼させるのは、ダラダラ話が続くだけになって、無理があるなと(;^ω^)


また別サイトですが、本日カクヨムの方でアホな日常を短歌にして投稿しております。

よろしければご覧下さいm(_ _)m

https://kakuyomu.jp/users/arashihanakokaku/works

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ