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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中
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643.隠し通路〜教皇side

『導き、戻せ』


 とうとう私は、背後にミハイル(対抗相手)を伴いながら、壁に向かって合言葉を唱えた。


「何も起きないな」

「違う壁のようです」


 ラビ様……出入り口を除く三方の壁の内、どの壁か教えておいて欲しかった……。


 ならばと気を取り直し、『導き、戻せ』をあと2度唱えて、正解に辿り着く。


「さすがラビ様。

隠し扉が開く瞬間まで、油断するなという教訓ですね。

それに合言葉を唱える楽しみを、私に3度も与えていただけた事に、感謝を」

「…………単に指定し忘れただけ……美化しすぎ……」

「行きますよ」


 後ろからのぼやきなど、聞こえない。

美化ではない。

ラビ様の気遣いだ。

これがわからぬミハイルは、ラビ様の兄失格だ。


 心の最奥では肯定しそうな自分を、ミハイルのぼやきごと、全力でなかった事にしながら、サッと通路に足を踏み入れる。


 ミハイルも足速に隣に並ぶ。

通路が真っ暗なのも相まって、圧迫感をより一層感じる狭さだ。


 手の平に魔力を集中させて、魔法で光球を3つ発現させて浮かせる。

柔らかな光で足下と頭上、前方を照らしながら、少し歩く。


 するとミハイルが、特に何もない場所で立ち止まった。

菫色の瞳が、煌めいて光に反射している。


「ここだ。

あー……頭の……ハイヨだったか?

ここに向かって……」


 ミハイルが側面の壁に手を添え、そう告げた途端、再びミトラが飛ぶ。


 おかしいな?

確かに帽子は魔法で固定していたのに……。


「ブメェェェ!」

「っぶなっ」


 手の甲を目がけて繰り出された、ハイヨの蹄キックを間一髪で避けたミハイルが、ドン引きした目で私を見る。


 壁に尖った蹄が開けた穴が、プチッと空いているが、もちろん私は何も指示などしていない。

無実だ。


「ハイヨー、シル……」


 無言で素早くミトラを拾い、最初よりも厳重にミトラを固定する。

親友の奥方の声ごと手早く遮音もしてしまう。


「「……」」


 暫しの沈黙。

見つめ合う私とミハイル。


 その憐れんだ目をヤメロ。


 壁の細工()が解錠されたのか、間髪入れずにゴトゴトと鈍い音をさせて上方へスライドするまで、私達は見つめ合った。


 そうして視線の高さに現れたのは、数十センチ四方の隙間。


 しかし一見すると、隙間には何もないように見える。

そんな空間に、ミハイルは両手を差し入れた。


「んんっ。

幻覚魔法だ」


 わざとらしく咳払いしたミハイルがそう言いつつ、何かを掴むようにして、空間から手を引き抜く。


 引き抜くと同時にミハイルの両手に、四角い箱が忽然と姿を現した。

更に箱の上には、古書が置かれていた。


「隠し部屋の扉の鍵と連動して、ここの鍵穴に適した鍵も変更されてしまう仕組みらしい」

「なるほど。

それでハイヨの蹄キック……」

「そうだ。

その箱の中に、ラビアンジェが言っていた物が入っているようだが、この古書は何だろう?」

「わかりません。

ひとまず隠し部屋まで戻りましょう」


 頷いたミハイルを伴い、隠し部屋まで戻る。


 ミハイルは埃を被った机に箱を置き、私は古書を手にする。


 古書にはいつからかわからないが、保護魔法が掛けられており、粗雑に扱いさえしなければ、普通に開いても問題ないようだ。


「随分と古い本……これは……」

「……カランド=シス=ロベニア。

2代目ロベニア国王の手記だ」


 誰が、いつ書いたのかと思いつつ、パラパラと紙をめくる私に、隣で古書__手記を覗き見ていたミハイルが、確信を持った口調で言葉を発する。


 手記に書かれてあるのは、後悔の念。

謝罪の対象として主に書かれてある名称は「叔母上」、「父上」、「あなた」。

決して名前は書かれていない。


 ミハイルがこの文脈から、どうやって2代目国王だと推察できたのかわからない。


 しかし今のミハイルを見る限り、私の中で変わってしまった過去の記憶に起因するのだろうと確信した。


 ラビ様からは、ミハイルと協力して何かを探して欲しいとお願いはされた。

しかし過去の記憶が変化した理由、そしてラビ様が何を考え、これから何をしようとしているのかまで聞いていない。


 いや、ラビ様は教えてくれようとしたのだ。


 けれど私が何も言わなくて良いと言った。


 変わった記憶の中で、()()()姫様が、欲しかった言葉をくれたから。


 ラビ様が私に「ただいま、()()」と仰ってくれたから。


「教皇、頼みがある。

教会内にあったものだが、これもラビアンジェに渡して欲しい」

「もちろんです」


 だからこそ、ミハイルの真摯な願いにも即答できたのだろう。

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