633.初恋と霧散
「さすが1人の王女にたかっていた、厚顔無恥な四大公爵家の血筋だな」
「まったくじゃ。
礼も尽くさんくせに、フィルン族長の威を借りようとは。
言っておくが、儂らはフィルン族長と同じ三大部族長じゃ」
「しかも俺達の方が、族長としての経験は長い。
フィルン族長が庇いきれると思うなよ」
「小娘、儂らは貴様らの祖先が犯した罪を直接見て、知っておる。
儂らリドゥール国民を、流行病の元凶と弾圧したばかりか、儂らに手を差し伸べてくれた王女を……」
「か弱く、儚げな王女を、よりによって色ボケした嫉妬に狂う稀代の悪女に仕立てた」
「そうじゃ。
まるで醜いとでも言うかのように……」
イケオジな弟への有り寄りな有りの考えに、うっかり支配されそうになっていたせいかしら?
チャド族長とシーン族長が交互に罵ってくるわ。
特に嗄れ声のツルリ族長の眼光は、とっても鋭い。
その上、オコが進化していってない?
お顔はもちろん、見晴らしの良い頭頂部を目指してみるみる赤くなっていくわ?
「王女は、ベルジャンヌ王女は心根の優しい、美少女じゃったのに!
族長となった儂が王女を救って妻乞いする前に、お前達の祖先が殺したのじゃ!」
カムチャッカなんちゃらにオコ進化したツルリ族長は、バン、と両手をテーブルに叩きつけて立ち上がる。
「厚顔無恥も甚だしい、人殺しの一族めがぁぁぁ!」
まあまあ、ドカンと山が噴火したかのように、大声で怒鳴られたわ。
どうでも良いのだけれど、つまり目の前でカッカしている族長2人と、ベルジャンヌだった私は、面識があったという事かしら?
というか今、美少女とか、妻乞いって聞こえたけれど……。
「シーン族長よ。
まるでベルジャンヌ王女が生きていれば、お前の妻になっていたかのような言い方だな。
族長となって可憐なベルジャンヌ王女に妻乞いをしていたのは、俺も同じ。
そしてベルジャンヌ王女を妻にしていたのは、俺だったはず」
「何を言うか!
儂の方が先に族長になったのじゃ!
王女が生きておれば、儂の方が先に王女を劣悪な環境から救い、妻乞いをして、もちろん返事は了じゃった!」
「ふん。
王女が亡くなったと知ったせいで気力がなくなり、暫く無為な時間を過ごしただけで……」
あらあら?
とうとう筋骨隆々族長も立ち上がって、今度は部族長同士で睨み始めたわ?
しかも理由が、しょうもないようにしか思えないのだけれど?
まさかのそんな理由で、部族間衝突なんて事態に発展しないわよね?
「あー、2人は12か13くらいの頃、ヒュシス教の神殿でベルジャンヌ王女と直接会っていてな。
流行病にかかって苦しむ中、治療してもらったらしい。
どうやらその時から密かに想って……」
「「初恋だ(じゃ)」」
罵り合いを始めた族長2人が、息ピッタリにベルシュリーの言葉を遮ったわ。
2人共、キリリとしたお顔ね。
「あー、その初恋が、族長になろうと思ったきっかけだったそうだ」
「………………そう」
呆れた口調のベルシュリーに、どう返そうかと悩むも、頷くにとどめる。
ちなみに初恋宣言した2人は、また口喧嘩を始めてしまったわ。
どうしましょう……せっかく初恋宣言を頂いたけれど、ついうっかりとだけれど、しょうもない理由ね、なんて考えている自分がいるわ。
それに美少女だとか、可憐だとか、随分とベルジャンヌを美化していない?
当の本人である私は、族長2人の顔を何度見ても、流民達の中にいたかしらと首を捻っているくらい、記憶にないわ。
ちょっぴり申し訳ない気持ちが……。
「とにかく!
俺の初恋を理不尽に奪った一族の娘が、苦労もなく俺達の国と交流するのにひと役買うのは気に入らん!
デザイナーを他の者に代わるか、この場で四大公爵家の人間としてベルジャンヌ王女の復権をロブールの名にかけて誓え!」
「そうじゃ!
人殺しの一族のくせに、平民の真似事で名を上げ、儲けるのは許せん!
自分の正体とベルジャンヌ王女の真実を公表し、デザイナーから手を引いて王女の復権に尽力せぬか!」
ヒートアップした族長達は、ヒートアップした勢いのまま、私に向かって要望を突きつけた。
まあまあ、どうしましょう?
申し訳ない気持ちが、霧散してしまったわ?
ご覧いただき、ありがとうございます。
やっと更新できたー!
落ち着いたと思ったら、予想外の予定が次々入りまくったせいで、過去一に忙しくて自分でもびっくりでした( ;∀;)
しかも更新がエイプリールフール……何か嫌……Σ(´∀`;)