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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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622.また襲われる〜ミハイルside

「どうやら間に合わなかったようだ」


 どこからか聞き覚えのある声がして、瞼をゆっくり開ける。


 この声は『助けたくば、見つけよ』と言った、あの声じゃないか?


 どこから聞こえているのかと動こうとして、異変に気づく。


 いつの間にか、薄い氷に身動きを封じられていた。

しかもこの氷からは、聖獣特有の魔力を感じる。


「だがラビアンジェとして生きる、お前の妻の魂が消滅する事だけは間に合った。

お前の妻はラビアンジェとして、今後も生きるだろう」


 良かった!

どうやら妹は助かったのか!


 瞬間的に湧いた安堵と歓喜に、顔が綻ぶ。


 しかし……ん?

今、妻と言ったか?


 しかし相変わらず、声の主の姿が見えない。


 瞳の力で周囲を視てみれば……いた!


 まず、俺から少し離れた場所にはラビアンジェ。

こちらに背中を向けて立っている。


 ラビアンジェの前には分厚そうな透明の壁。


 そして壁を隔てた向こうに……あの少年だ!

正確には、間違いなく黒い詰襟服を着た少年が成長したと思しき、青年だった。


 簡素なシャツとスラックス姿の青年が、聖印に全身を焼かれながら、壁に手を、片膝を床に突いて、上を見上げている。


 息も絶え絶えな様子の青年を、妹が壁越しに見ていた。


「探索者達はラビアンジェを見つけ、ラビアンジェがベルジャンヌとして何を思い、何故死んだかを正しく理解した。

その上でラビアンジェ自身、我をどう解放すれば、ベルジャンヌが最期を迎えた時に我と結んだ誓約が果たされるか気づいた。

なれど探索者達は、ラビアンジェの魂と紐づくお前まで、正しく見つける事はできなかった」

「いや、普通は探索者達も気づかねえだろう」


 そうか、俺達は全員、あの少年が、そして恐らく一番初めに現れた初老の男も、何者かまで考えるに至っていなかった。


 俺は結局、ベルジャンヌ王女を、昔の妹を助けられなかった。


 要所、要所で現れて、俺達探索者を陰ながら助けてくれていた、この青年も助けられない?


 いや、まだ青年は消滅していない。

何かできる事はないのか?!


 魔力を練ろうとして、そもそも魔力が今の体に存在していない事に気づく。


 だったら何故瞳の力を使えているんだと考えるも、瞳の力はそもそもが固有スキルだ。

魔力も影響するが、魔力が無くても使えるのだろう。

 

「探索者達の誰か一人でも、お前の存在を確かめようとしていたなら、或いは結果は違っていたやもしれぬ。

お前の姿を見せる事を許し、お前が何者なのかを推察する機会は設けている。

残念だ」


 絶句する。

自分の至らなさに、目先の妹と王女の事ばかりに気を取られた自分の浅慮に、絶望する。


 この青年は、妹を妻だと言った。


 そして祖母の体の中にいた妹は最後に、「この次の幸せな生涯」と口にした。


 だとするなら、妹はベルジャンヌとして死んだ後、ラビアンジェとして生まれる前に、別の人生を生きている可能性が高い。


 そしてこの青年は、その幸せな生涯を共にした、妹の夫だったんじゃないのか?!


 ふと、妹が上を見上げる。

そして俺の方を軽く振り返った。


 含みのある微笑みで……『コピーシタワ』?

読唇術で読み取るも、何語だ?

発音はしていないが、口元はそう動いた。


 心なしか、妹の藍色の瞳が煌めいている?

金環が入った瞳だから、そう見えているだけか?


「我はラビアンジェとお前の魂を切り離す。

さすれば消滅するのは、お前の魂のみ。

他の世界の住人であったお前を巻きこんだ事は、申し訳なく思う。

しかし全てを知り、巻きこまれる事を選んだのも、お前なのだ」


 別の世界という言葉が一瞬気を取られる。


 しかし妹が『ミツケタ』と口元を動かした事がもっと気になる。

しかもあの含みのある笑み。


 絶対、何か企んで……あれ、妹の姿が煙のようにスウッと消えた?!


「へっ、そうかよ。

でもな、お前は舐めすぎだ」

「我はお前を舐めてなどおらぬ。

事実だ。

お前はどうあっても逃げる事も、消滅を免れる事もできぬ」

「ここから逃げるつもりなんかねえよ。

それにお前が舐めてんのは、俺じゃねえ。

俺達夫婦、時々、ラビアンジェ=ロブールの血縁者だ。

それに俺が逃げられねえなら、あっちから来てもらえば良いだけだ」

「何を……」


 ニヤッと青年が不敵に笑って、大きく息を吸うと……。


月和(ツキナ)ー!

元カノだ〜!

()()襲われるぅ〜!

たぁすけてぇ〜!」


 突然、青年が楽しそうに、情けない声で叫んだ。


「「は?」」


 突然の出来事に、俺とアヴォイドの声が被った。

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