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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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604.金儲け自体が好きな変人〜ラルフside

『こっちだ。

早くそこの窓から、外へ出ろ』


 俺にそう言ったのは、誰だったのか。


 ミハイルと共に流民達と乗りこんだ船。

その船に突然現れた、見慣れぬ詰襟の服を羽織った少年。

その少年の声と良く似ていた気もする。


 昨日、ソビエッシュとは国王との謁見前に別れた。

俺は御者兼、ソビエッシュの侍従として従っていた為、謁見の場に付き添う事が出来なかった。


 しかしどれだけ待てど、ソビエッシュは部屋から出て来る事はない。


 ソビエッシュが部屋に入る時、チラリと見えたのは2人。

子兎の時、王女の羽織った外套の下から垣間見た、ベリード公爵とニルティ公爵だ。


 国王の姿は見えなかったが、間違いなく謁見の場に居たはず。


 時間がかかるからと、俺は別室で待機させられている所に、少年らしきの声が聞こえて窓から出た。


 数秒後、俺が居た部屋へ入る足音がして、俺を探せと慌ただしく出て行った。


 部屋に入り、探せと口にしていたのは、靴音と剣の擦れる音からして騎士だ。

少年らしき声に従わなければ、身分社会が強そうなこの時代の騎士達から、どんな扱いを受けていたかわからない。


 部屋から聞こえた声音は、そんな危機感を煽らせていた。


 足音が遠ざかってから、馬車停で別れていたレジルス(ポチ)がどこからともなく現れて、俺をその場から連れ出した。


 どうでも良いが、ポチの首輪。

良い働きをしているな。


 首輪は、目眩ましと気配消しの魔法が付与された魔法具。


 ポチを片手で抱き上げ、空いた手で首輪を掴んでいると、俺にも効果が発揮される。

今回、初めて知った。


 ポチと共に自分の居た建物を出て、違う場所から隠し通路に入り、隠し部屋らしき場所で一夜を明かした。

途中、居なくなったポチが再び現れ、誘われるまま、辿り着いたのが、ここ。


 見覚えのある地下牢だ。

子兎の時に王女と入っていた地下牢に違いない。


 俺は中にいた人物__ソビエッシュに声をかけた。


「ラルフ、何故そんな所から……ああ、ポチに連れられて……ポチ、城を探検するのは良いが、ベルに迷惑をかけるような真似は……」


 薄暗い牢なのに、ソビエッシュの瞳が煌めいて見えるから不思議だ。


 ソビエッシュがポチに話しかけるも、不自然なタイミングで口を噤む。


「隠れていろ」


 ソビエッシュは短く指示を与えて、スッと柵の方へ身を寄せた。


「ふん、良い気味だ。

そんなに王族の血を取りこみたかったのか」


 コツコツと靴音をさせて現れたのは、エビアス。


 エビアスは牢の中を顔を見せた途端、馬鹿にした笑いを浮かべて言い放つ。


「何が言いたい」

「とぼけるな。

昨日、父上と母上の不況を買い、ここへ閉じこめられただろう。

それでも答えを変えずにいるのは、卑しい平民の血が混ざっていても、ベルジャンヌが王家の血を引いているからだと、わかっている」

「どういう意味だ」

「まだとぼけるとは、無駄な事を。

ロブール公爵家は長らく聖獣と契約できていない。

なのに四大公爵家を名乗れているのは、いち早く他国との取り引きを開始して、富を築いたからだ」

「富と四大公爵家を名乗る事に、何の理由が?」


 こちらに背を向けるソビエッシュの顔は見えない。


 しかしソビエッシュの口調から、エビアスが言わんとする事が何か見当がついていないと察する。


「聖獣がいても、国内での支持を得ながら権力を保つ王家と四大公爵家には、金がいる」

「それが?」

「小賢しい格下の貴族達を黙らせ、数が多い卑しい平民達に支持させるには、我々だけの金では足りず、ロブール公爵家の献金が必要だった。

だから聖獣と契約もできずにいたロブール公爵家も、献金の褒美として四大公爵家のままにしてやっていたのだ。

ただ、金が尽きた場合を考えたロブール公爵は、不安を感じてベルジャンヌをロブール家の血筋に取りこみたかった。

どうだ、お前達の考えている事など、こちらもお見通しなんだよ」


 エビアスがニヤリと笑う。


 するとソビエッシュは、ため息を吐いた。


「随分と真相が捻れている」

「何が言いたい」

「ロブール家の先祖の1人に、とんでもなく金儲けに執着した人間がいたのは確かだ」

「なら……」

「最後まで聞け。

その祖先は3度の食事より、金儲けが好き。

金が好きというより、金儲けする行為が好き。

そんな変人だった。

その変人はロベニア国でいるより、他国の方が金儲けができる。

そう考えて四大公爵家を、ひいてはロベニア国自体から出奔しようと試みたのだ」


 ソビエッシュが言い終わると、抱えたポチが小さく「わふ」とため息混じりに鳴いた。


 何となくポチが「ああ、ロブール家なら、そんな変人がいそうだな」と、半ば呆れているように見えたのは、黙っておこう。

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