593.夫婦喧嘩勃発案件
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
お久しぶりの、ラビアンジェ視点です。
おかしいな……真面目に変わった記憶の違いを整理しようとしたのに……。
「戻ってきたか」
「おう、アヴォイド、ただいま」
アヴォイドの言葉に、返事をしたのは私の前世の旦那さん。
随分、仲良くしているのね。
「月和も、ただいま」
頬に触れる手の感触と共に、旦那さんが私にも話しかけてきた。
おかえりなさい、あなた。
私の方は、心の中で返事をしておいた。
旦那さんが船の上で、お兄様とラルフ君を飛ばしたところで、私もこちらに戻ってきた。
今の私は魂から意識を乖離しては、再び魂と融合して、を繰り返している。
国王に支えられながら発動させた魔法陣。
アヴォイドが干渉した魔法陣のお陰か、私は探索者達とも意識を共有できるようになった。
そして気づいたらこの場所……ベルジャンヌだった私が最後にアヴォイドと話した場所で、魂となって留められている。
更には、前々世の中に、新たに刻まれていく過去の記憶も、現在の記憶の中に生まれては、新旧共に共存していくという、不思議な体験中よ。
元々の私の記憶には、スリアーダと当時の教皇が神殿に隠されていた部屋で、2人きりで話をする場を目撃する場面はなかった。
教皇が寂れた人気のない神殿の前で、【冥獣は時逆により、聖獣の主を異なる者へと至らしめん。
冥神はその後、6つの非なる力で静かなる眠りを異なる者に与えて封じた】と呟くのを聞いただけ。
きっとお兄様とラルフ君が過去に介入した事で、ベルジャンヌに休息の時間ができたお陰だ。
そしてタイミング良く、ベルジャンヌをあの場へと導いた黒髪の少年は……。
「んふふ……」
あらあら?
思わず声が漏れたわ?
目も開かない、声も出せないはずなのに……。
まあ、今の私にはそんな事は些事!
何せ推せる!
うちの旦那さんの生長ラン服姿!
推せる!
前世、月和だった頃、写真では見た事はあった。
しかし当時は照れ屋な旦那さん。
生長ラン服を一式、ネットショップで買いこんで、そっと差し出したにも拘らず、着てくれなかった!
あの日の私の落胆と言ったら、もうっ、もうっ、もう!
ついでにふんどし姿も見たいと、上着とズボンの間にセットしたのがいけなかったのかしら?
とにもかくにも、死んでから生の姿を見られるなんて!
死んだ甲斐があったってものよ!
どうせならふんどし姿も……
「んふぇふぇふぇ……」
「何だ?
起きた……いや、寝てんなあ?
アヴォイド、一応、お前の制限が効いてて、うちの奥さんの意識が深く魂に潜ってんじゃなかったか?」
「…………変態パワー」
ん?
アヴォイドの声が小さく何か呟いた?
「いや、何でもない。
私の力を一瞬だけ暴発、いや、爆発的に色々と力が溢れ出たのだろう……ベルジャンヌ……こんな進化を遂げるとはな……恐ろしいな……」
「ふうん?
しっかし、この変態顔……俺の奥さんがやべえ奴になってねえ?
何の夢見てんだ?」
あらあら、旦那さんが呆れているわ?
そんなに変態顔かしら?
飽くなき情動の追求をしているだけよ?
ああ、できれば目を開けて、今のあなたの姿をこの目に焼きつけたい。
別に私の意識が探索者達を介して、うろついている事はバレているのだもの。
気合い一発、エイヤッと目を開けても良いんじゃないかしら?
どうせなら、高校の卒業アルバムや写真越しじゃない、生応援団員なあなたの風貌を……。
「まだ眠ってろ。
月和はあいつらに見つけてもらわないと、強制解除の魔法が成功しねえ。
それに月和も、ベルジャンヌとして約束した事を守らねえとな」
ええ、わかっているわ。
私はまだ、アヴォイドの望みを見つけられていない。
わかってはいるけれども!
推しの応援団員姿なんてレアな状態は見たい!
生なのよ、生!
瞼よ、開け!
ぐぬぬ、と瞼に力を入れれば、ピクピクと痙攣するのを感じる。
けれど旦那さんの手の平らしき温かさが、私の瞼をそっと押さえる。
くっ、焦らしプレイね!
負けない!
「夫婦喧嘩……勃発……案件……」
あら、とうとう声が出たわ!
あと少し!
「あー、うん。
俺は夫婦喧嘩のつもりねえけど、今は駄目だって。
好奇心が今世に引っ張られてんのか、若けえな」
旦那さんの呆れた声。
そうよ、今の私は花の十代!
愛しい人の推し姿に、首ったけよ!
恋の暴走機関車よ!