書籍3巻重版記念SS【蛇と蜥蜴の馴れ初め】〜ラグォンドルside
「馴れ初め?」
「うん!」
初めて知った、我が娘の存在から暫くした頃。
娘であるピケルアーラにせがまれて、俺とピヴィエラとの馴れ初めを話し始めた。
※※※※
「お前!
美味そうだな!」
森の覇者たる俺は、日当たりの良い原っぱで眠るデカい蜥蜴を見つけた。
白い体に陽があたると、薄っすら金ピカに光る蜥蜴には、形が蝙蝠みたいな翼が生えている。
鬱蒼と茂る森の中で、初めて見た食べ物。
食ったら絶対、美味いやつ……。
「……ああん?」
__ゾクゾクゾクッ!
「?!」
蜥蜴がもの凄い目で俺を睨みつけた?!
この森で俺を睨む奴なんて、最近ではあまりいない。
殺気が走る赤紫色の目。
こんな色の目をした食べ物は、初めて見た。
気を抜いたら、俺が食われる!
俺がこの森で、少しずつ縄張りを広げるようになってから、鬼気迫る生命の危機など感じた事がなかった。
食われる恐怖を味わったのなんて、俺がチビ蛇だった頃以来だ。
なのに何でだ?
ドスの利いた声に背筋がゾクゾクッとするのが……気持ち良い?!
「何じゃ、小僧?
妾が久々の惰眠を貪っておれば……」
「へ?」
__ゾクゾクゾクッ!
ま、まただ!
何だ、このゾクゾク気持ち良いの?!
「妾の安眠を邪魔する不届き者は、魔馬に蹴られて死ぬが良い!」
__バチィン!
「へぶし!」
気づいたら、翼の生えた蜥蜴の尻尾で、ふっ飛ばされていた。
それ以来、何十年と俺は蜥蜴を探したのに、見つからなかった。
※※約100年後※※
「お前!
やっと見つけた……」
「……ああん?」
__ゾクゾクゾクッ!
「?!」
何十年ぶりに会った蜥蜴は、川にいた。
また睨まれたのに、やっぱり背筋がゾクゾクして気持ち良い。
「何じゃ、小僧?
妾が気持ちよく行水しておれば……」
「へ?」
__ゾクゾクゾクッ!
白くて綺麗な金ピカの光と、今日は水滴がたくさん体についていて、凄く……食欲が暴走してるのか?!
ゾクゾク気持ち良いのが全身にゾクゾク襲ってきて……あの体に貪りつき……。
「妾の裸を覗き見る変態野郎は、土に埋もれて魔メロディー芋の肥やしにでもなるが良い!」
__ドゴ〜ン!
「はぐぇ!」
気づけば、蜥蜴の尻尾が俺を地中に打ちつけ、埋められていた。
また100年くらい会えないのか?
そう思うと、凄く……何でだろう?
今度は食欲が失せてしまった。
※※ほどなくして※※
「い、いた……」
「……ああん?」
__ゾクゾクゾクッ!
「?!」
意外にも、再会は早かった。
白い蜥蜴は、食事中だったらしい。
何かを丸飲みしようとしていた。
ああ、長らく感じていなかった、ゾクゾク気持ち良いのがきた!
ん?
蜥蜴が何かを押さえつけている。
餌か?
いいな、あの餌。
俺も蜥蜴に押さえつけられ……って、何でこんな事……。
「何じゃ、小僧?
妾が兎熊を貪ろうとしておれば……」
「へ?」
__ゾクゾクゾクッ!
くっ、またゾクゾクして……快感!
何で快感なんだ?!
「妾の食事を邪魔する不届き者は、酒に浸けて精力飲料に土にでもなるが良い!」
__バシャバシャバシャ!
「アバババ!」
酒、という水の球に暫く閉じこめられた俺。
出てきた時、蜥蜴はもういなかった。
やけにフラフラして、目が回って、暫くの間は蜥蜴を探す事すらできなかった。
※※約100年後※※
「お、おい!」
「……ああん?」
__ゾクゾク……。
「?!」
またゾクゾクしかけた。
けど蜥蜴の体が傷だらけになっているのに気づいて、スッと気持ちが冷えた。
「何じゃ、小僧?
妾が弱ったところを狙って……」
「誰だ!
誰にやられた!
俺がそいつを殺してやる!」
思わず叫んで、蜥蜴に詰め寄る。
俺よりデカかった蜥蜴は、いつの間にか、俺と同じ大きさになっている。
いや、いつか蜥蜴を食ってやろうと思って、力をつけていく間に、俺が大きくなったんだ。
「はあ?
何故、お前が怒っておる?」
「当たり前だ!
お前は俺のだ!
俺の……俺の……」
何だろう?
食べ物?
違う。
本能が俺に囁く言葉は……。
「はあ、何じゃ?
妾がお前の何だと……」
「お、俺の番だ!
誰にやられた!
仕返ししてきてやる!」
そう叫ぶと、蜥蜴は俺を見て、少し考えこんだ。
「ふうむ……なるほど、可愛くはあるな」
「な、ななな、かわ、可愛い、だと?!」
「何度も妾に、無謀にも挑むところはな」
「む、無謀……」
「そうじゃな。
そろそろ育てるのも良いか」
「そ、育て……俺はガキじゃない!」
「そうかそうか」
蜥蜴に子供扱いされるのは、もの凄く嫌だ。
なのに蜥蜴は相槌を打つけど、絶対俺を適当にあしらってるだろう!
__バキバキバキ!
「ええ?!」
と思ったら、蜥蜴が魔力を練り上げて、魔力を放つ。
すると土と光が合わさって、固くなった砂が俺の体を閉じこめた。
砂山に顔だけ出した、無様な姿だ。
「何で閉じこめた?!」
「そこから自分の力だけで出てくるが良い。
ちゃんと魔力を使うのじゃぞ。
さすれば出られるし、出たなら一匹の雄として相手をしてやる」
「な!
ふざけんな!
あ、おい、どこに行くんだ!」
「あまり待たせてくれるなよ」
蜥蜴、後にピヴィエラと名乗り、無事に番となった未来の奥さんの、最後の言葉。
早く会いに来い。
そういう事だと思った俺は、必死になって砂山から這い出た。
※※※※
「恋心を食欲と勘違い?
勘違いラブコメ?」
「ピケルアーラ……どこの破廉恥小説家が書いた、どの小説に影響を受けたのか、あえては聞くまい」
馴れ初めを聞かれて話したものの、ヤバい小説の毒牙にかかっていそうな気がするのは、あえて触れずにおこう。
明けましておめでとうございます。
新年一発目は、以前に予告していた3巻の重版御礼SSです。
※ちなみにピヴィエラが傷だらけだったのは、No.511のせいです。
お陰様で今のところ、1〜3巻の全てが重版となっております!
そしてそして!
【稀代の悪女】の4巻刊行が決定しました!
今回は3巻のラストがWEBと変わった事から、4巻の前半にオリジナルシーンを追加。
また、4巻のラストが完全に変わっている為、後半は全てオリジナルシーンとなっております。
書籍ラストはWEB版で死亡した誰かは死亡せず、生きて活躍していたり、家族愛が垣間見えたりと、WEBにはない真面目さと滅茶苦茶さを披露しております。
既刊全てにWEB版と比べ、大幅な加筆修正もしております。
まだ書籍は見ていないという方!
4巻発売までにぜひお手元にお招き下さると、とっても嬉しいです!
そしてこれからも【稀代の悪女】を、よろしくお願い致しますm(_ _)m
※こちらは他サイトですが、毎日更新しているので、よろしければ。
やっと五万文字到達が見えてきました。
【くっせえですわぁぁぁ!
〜転生女伯爵の脱臭領地改革〜】
https://kakuyomu.jp/works/16818093089751214336