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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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580.老人に似た少年〜ミハイルside

「ラルフ」


 ロウ爺が背後で眠っていた娘、アシュリーと再会した後、俺はラルフに声をかけて部屋から出る。


 ロウ爺は王女からアシュリーについて説明を受けていたらしい。


『全て聞いておる。

これからの事もな。

娘と2人にしてもらえるか』


 と言っていた。


 ラルフと共に、甲板にいるだろうリャイェンの元へと行く。


 アシュリーの他に、ロウ爺が合流した事を説明し終わった頃。

海の彼方。

水平線に港が、陽炎のように薄っすらと目視できた。


「ミハイル、これを預かってくれないか」

「これ……」


 リャイェンが差し出したのはブローチ。

アイリスの花を彫ったカメオだ。


 恐らく随分と昔に作られている。

精巧な造りで物が良いのが見て取れる。


 何より、ブローチから溢れる淡い白銀の光。

聖獣が纏う魔力の残滓と同じ光に、息を飲む。


 このブローチ……聖獣の毛や牙を使ってできている?


「帰ったらベルに渡してくれ。

礼だ。

俺の部族で代々受け継がれてるお守りなんだ。

何でも初代ロベニア国王が俺の祖先に渡したとか、渡してないとか?」


 初代ロベニア国王だと?!

思わず絶句した。


 リャイェンはそれとなく茶化しているが、このブローチからは守護の力を強く感じる。


 リャイェンの祖先の、一体誰に送られた物だ?!

何故、ロベニア国王が隣国の部族に?!


 内心は大混乱だが、今の俺はロベニア国以外の国の住人。

驚き過ぎてはリャイェンに怪しまれる。


「……どっちだ。

大体、何故今になって渡そうと……」


 渡すなら、ロベニア国で王女と別れた時に直接渡すべきだった。


 そう思って口を開いたものの、言葉を途中で飲みこむ。


 リャイェンの苦笑した顔を見て、察する。


 恐らくリャイェンは王女を信じきれなかった。

けれど信じたい気持ちもある。


 史実通り、リャイェン達の帰国が1ヶ月後なら結果は違ったかもしれない。

リャイェンが王女と時間を共にする事で、王女を信用する未来があっても否定できない。


 いや、それは難しいか。


 そこまで考えて、内心で頭を振る。


 俺の知る史実では、1ヶ月後にリャイェン達流民はロベニア国が負わせた負債を請け負い、貧民街の治水工事を行っている。


 何よりも、このブローチが王女の手元にあったなら、王女はブローチに守られていたに違いない。

来年の今頃、王女が死ぬ可能性は限りなく低くなる。


 それくらいこのブローチにこめられた守護の力は強いのだから。


 リャイェンは自国へ帰り着く見通しが立った今、やっと安心してブローチを手放す覚悟ができたのだろう。

ブローチの価値を理解しているが故に、俺を通して王女へ渡す気になった。


 このブローチが誰に贈られたのか、見当もつかない。

しかし贈られた当初であれば、もっと強い力を放っていたに違いない。


 その時だ。


 ブローチから眩い光が放たれたのが視えた。


「え?」


 不意に流れこむ記憶の奔流。

突然の事に戸惑うも、止められない。


 走馬灯のように、瞼の裏で映像が流れ始める。

凄い速さなのに、どんな映像なのか理解していく。


「「どうした?」」


 背後でリャイェンと俺のやり取りを見守っていたラルフが、リャイェンと共に声をかけてくる。


「お、おい?!」


 慌てるリャイェンの声も、無言で俺の傾いだ体を支えるラルフの手の感覚も遠い。


 時間的にはほんの数十秒。

しかし俺の体感では十年は経っていた。


「もう……平気だ。

リャイェン、ブローチは責任をもって……」


 王女に渡そう。

そう言いかけた時だ。


「悪いな。

時間切れだ」


 少年の声が俺達の背後から降って湧いた。


「誰だ!」


 ラルフが俺とリャイェンを背後に庇う。


 俺も振り向き、ラルフの背中越しに声の主を確認する。


「んな警戒すんなって。

ちーっとばかし、長居しちまったな。

俺の奥さんが近くにいたから、なかなかお前らに近づけなかったわ」


 少年だった。

ラルフと同い年くらいか?


 詰襟のある、丈の長い上服。

簡素な軍服のようにも見えるが、ボタンが黒に映える金である事以外、飾りは何もついていない。

服もズボンも真っ黒。

初めて目にするタイプの服だ。


 しかし気になったのは少年の顔つき。

明らかに、この辺の国々にはいない民族だとわかる。


 王女と初めて会った日の地下牢に現れた老人。

あの老人と同じ民族ではないだろうか?

口調も老人とよく似ている。


「んじゃ、これが最後のチャンスな」


 いつぞやの老人のように少年は、俺とラルフに手をかざした。


 するとまた、あの魔法陣が現れて、眩い光を放つ。

俺は、そしてラルフもだろう。

再び光へと吸いこまれた。

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