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483.今世は軽い

「どうして……」


 掠れた声が漏れてしまう。


 前々世、死地に向かう少し前。


 生まれた直後から、ずっと理不尽に接してきた()()()()を感情の赴くままに殴って、随分と気分がスッキリしていたのを覚えている。

後にも先にもそんな事をしたのは、あれが最初で最後。

前世でだってやっていない。


 今ならあの時爆発した感情は、怒りだったと理解できる。

思春期らしい特大の癇癪。


 けれど……きっかけになるあの人は、あの時代にも、この世界にだって……。


「ラビ?」


 いけない。

キャスちゃんがどこか訝しんでいるわ。


「そうね。

私もまだ一緒にいられるよう……力を尽くすつもりよ」


 断言してあげるべきかもしれない。

けれど大事に想う家族だから、真剣な問いかけには、どうしても嘘や誤魔化しはしたくない。


 私という意識がこの世界に再び根づいた時から、ラビアンジェとしての人生は余生でしかなかった。

どこか地に足のつかない、浮ついた感覚で生きてきた。

ベルジャンヌから始まって、月和として死んだ(完結した)後の……生温くて身の入らない余生。


 だから今世の私は、前々世で置いて逝ったキャスケット達を優先すると決めている。

それもあってか、聖獣に関わる事以外の物事にも、人にも、誰かや自分の感情にすら執着が起きない。


 ただ、楽しむだけ。


 ラビアンジェとしての人生そのものには、特に興味が持てずにいる。


 どうせ前世の家族は……私が人間らしい愛を注ぐ事のできた人達は、この世界にいない。

世界が違うのだから、どうしたって私達の魂が巡り逢う事なんてない。

前世のような奇跡は……もう二度と起きない。


 この世界でラビアンジェとしていきる私の生は、月和としての記憶を持ち転生したからこそ、随分と軽く感じてしまう。

キャスちゃん達がいなければ、きっと悪魔も人も等しく放っておいたかもしれない……。


『ラビアンジェ、ごめん!

兄様が絶対助けるから!』


 ふと必死に私を治癒させようとした、幼かった兄の顔を思い出す。

この体がまだ幼くて、うっかりルシアナからの攻撃をまともに食らったあの時。


 兄の年齢的にも、治癒魔法なんていう難しい魔法を無理矢理発動させるには早かったと思うわ。

魔力を枯渇させて苦しかったでしょうね。


 お兄様がしなくても、自分でどうにかできた。

キャスちゃん達だって異変には気づいていたから、いつでも治癒してもらえた。


 途中で止めさせようと思えばできたのに、あの時はどうしてか兄の魔法(想い)が心地良くて。

こっそり魔力を補填してあげながら、傷が塞がるまで治癒してもらったのだったわね。


――パキン。


 不意に悪魔結界の壊れる音が聞こえた。

学園の校舎に向かって、半ば無意識に索敵する。


 やっぱりお兄様の魔力は……感知できないのね。


 まだ学園にいるはずの兄以外の知っている魔力も感知できない。


「そうね、力は尽くすわ」

「……ラビアンジェ、何があっても……もう僕を置いて逝かないで」


 先の事を約束できない私に、キャスちゃんは何を思ったのかしら。

真摯な瞳で私をひたと見つめて、そう念を押す。


「もちろんよ、キャスケット。

私の持つ()()()()において誓うわ」


 それは約束する。

どうせ置いて逝っても、次は必ず追って逝くでしょう?


「約束、守ってね」


 きっとキャスちゃんは、私の答えを信じていない。

そんな不安の残るようなお顔で、心配そうに私とキャスちゃんを見ていたディアを連れて消えてしまった。


 キャスちゃんのいた宙を暫く見つめてから、静かに1度、大きく息を吸って吐く。


 この場の全員が、私の一挙手一投足に固唾を飲んで見守っているのを感じるわ。


「ジャビ、いるのでしょう」


 けれどそんな彼らよりも、用があるのは悪魔。


 聖獣と契約しているからか、微かながらも腐臭を感じ取っていたから呼びかける。


「ふうん、気づいていたの」


 側妃の倒れている方から声がして、そちらに目をやれば、既に悪魔は立っていた。

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