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470.ベルジャンヌ王女の遺品と鞭〜王妃side

「何で魔法が全然使えない……ぐぁっ」

「剣で戦うには数が多すぎ、ぎゃああああ!」

「嫌ぁ!」


 ただ文化祭を楽しむだけの場だった学園は今、人々の怒号と悲鳴が飛び交う修羅場と化してしまった。


「走れる者は皆、こちらへ来なさい!

一部開けてある障壁の隙間から中へ入るのです!」

「お、王妃様!」

「助けて下さいまし!」


 校舎の中から逃げ惑いながら中庭に躍り出た大半の者は、王妃である(わたくし)が守らねばならぬ学生達。

私のすぐ後ろに庇う、息子達の婚約者候補たる2人の令嬢もまた然り。


 私達王族と教皇のような一部の貴賓を除いた、待機中だった保護者を含めた大半の高位貴族達はどうしているのか。

確かめる余裕はなくとも、気にかかる。


 王妃である私を守るのは、剣を手にした護衛騎士が1人と、普段は隠密として表に出ない鞭を手にした王家の影が1人。

私達をドーム状に囲む魔法障壁の、外から入れるように一部欠けさせた後方を守るようにして立っている。


 整った顔立ちの騎士はともかく、長身の影はローブを深く被り、ダークグレーの瞳をした切れ長の目元以外、布で覆っている。

王家の影が手にする青紫色をした鞭の魔法具。


 【()()()とお呼び!】が起動ワードだったのには啞然としてしまったけれど、影はハスキーな声をした女性だったのね。

ローブのせいで、わからなかった。

さすが変わった起動ワードを用いてあるだけのことはあり、鞭の殺傷能力は高い。


 騎士も影も剣と鞭で魔獣を切り倒しながら、私の意を汲んで障壁の中に学生達を誘導する。


 障壁は私が平素と比べてかなりの魔力と集中力を消費しながら発現させ、今のこの状況下の中でも維持できている。

きっと常に身につけているペンダントトップ(魔法具)のお陰でしょうね。


 魔法具には聖獣キャスケットの毛が使われているという、今は亡きベルジャンヌ王女の数少ない遺品。

陛下の母君である先代王妃殿下(王太后様)より、王妃となった際に譲り受けた。

これを身につけていれば魔法師団長が張った魔法を制限する結界の中でも、魔法は普通に使用できる。


 2年Aクラスが使用していたこの中庭。

食後のお茶を飲んで一息つきながら陛下一行を待っていると、前触れなく突如薄赤い結界が現れた。

その後、暫くして中庭から見える限りでは校舎や庭の至る所に、濃い色の赤黒い魔法陣が浮かび上がった。

この魔法陣は全てが黒ずんだ血のような赤色で、不気味だった。


 ややあって、そこから種々様々な魔獣が召喚されていき、まるで魔獣集団暴走(スタンピード)のように魔獣が暴れ狂う。

魔法が使えない学生達は、大した抵抗も出来ないまま魔獣達の暴虐に巻きこまれ、蹂躙される。


 幸いにも私がこうして魔法障壁を張れたのは、学生時代にAクラスとして発表した卒業研究で、魔法解析技術の向上をテーマにしていたからかもしれない。


 赤黒い魔法陣が魔獣の召喚と、狂化を誘発する物だとすぐに気づいて対処できた。

目についた全ての魔法陣に魔力を流し、阻害魔法を発動させた。


 けれど私の視界に写らない場所でも、その魔法陣は発生していたらしい。

やがてそこかしこから魔獣の我を忘れた咆哮が轟き、同時に破壊音と人々の悲鳴が辺りから響いた。


 その時……。


__ドクリ。


 心臓が突然大きな拍動を1つする。

何故か胃の腑が熱くなり、迫り上がった何かを吐き出せば、それは血液。

間違いなく私の血。

体も熱を帯び、そこからは徐々に呼吸が難しくなってくる。

 

__ドクリ、ドクリ……。


 それは次第に回数を増し、何かが喉に詰まっているかのような違和感を感じる。


「……っ、ぁ……っ」

「王妃様?!」


 私の体に起きた異常事態に気づいたのは、バルリーガ公爵令嬢。


 こんな時に、と声を出そうとしても喉で詰まる。

息を吐く事も吸う事もできないまま、目眩がして膝をつく。


 バルリーガ公爵令嬢は前屈みになって倒れこみそうになった私を、もう1人の令嬢であるダツィア侯爵令嬢と共に支えてくれた。


__ガシャーン!


 その時、校舎の窓を突き破り、2頭の魔獣が私のすぐ前に落ちて着地した。

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