469.不測で幸運な機会〜クリスタside
「陛下、王妃は私が。
陛下は騎士団長を除く護衛騎士達を側に置き、クリスタ側妃と外へ。
学園の外で待機する魔法師達に至急、非常事態を知らせて下さい」
不意に現れたかと思えば、レジルスが陛下に指示を出す。
私と同じ意見ならと黙っていたけれど、騎士団長を除くと言ったの?
「騎士団長は私と共に、王妃の元へ向かって欲しい。
王子と王女は前ロブール夫妻と共にいるなら、ひとまず安全でしょう。
ミハイルは高位貴族、並びに貴賓を外へ誘導。
嫌な予感がするから、脱出は早い方が良いだろう。
フォルメイト嬢にも騎士を1人つける。
危険かもしれないが、そなたも高位貴族。
動いて欲しい」
「もちろんです」
「すまない。
第一王子としての私の名前で校内アナウンスを使って学生や教師達に、すぐに学園の外へ出るよう指示を出してくれ」
レジルスがチラリと陛下を見やり、視線で許可を求めると陛下が頷いた。
「なりません!
騎士団長こそが陛下のお側でお守りすべきでしょう!
なんの権限があって王子ごときが陛下の決定を覆すのですか!」
レジルスはともかく、騎士団長は魔法が使えなくとも強い。
それに彼が腰に帯びている剣は魔法具でもある。
ジャビは魔法の発動は抑えたけれど、魔法具にまでは言及していなかったわ。
万が一、ソフィニカを助け出したらどうしてくれるのよ!
「クリスタ、黙れ」
「陛下?!」
そんな私を陛下は静止する。
陛下を尊重した物言いなのに、どうしてそんなに冷たい目で私を見るの?!
「そなたは王族の籍には入っても、王家の血を引く王子ではない。
王妃でもない側妃が王子ごときと、このような場で口にするなど許されぬであろう」
「そんな……私は陛下の為を思って……」
「黙れ。
加えてレジルスは学園の全学年主任でもある。
そなたの息子とは違い、責任を全うしておろう。
余に意見する権利を持ち合わせておるのは当然よ」
「ジョシュアを療養させたのは、陛下の意志ではありませんかっ」
酷い人!
私だって今は王族の一員よ!
それも私の息子ではなく、ソフィニカの息子を尊重しようとするなんて許せない!
「そなたは何もわかっておらぬな。
そもそもレジルスが駆けつけた時点で状況が変わった。
騎士達はレジルスの指示に従うが良い」
「「「「「はっ!」」」」」
ギリギリと歯噛みする私。
隣にいたフォルメイト侯爵令嬢が、どこかほっとした顔を見せたのも気に入らない。
仮にも婚約者候補の母親なのに、危険な状況でも公子と時間を共にする方が良いと言いたいの!?
私の生んだ優れた外見と血筋を合わせ持つ王子達より、長年の公子を選ぶというのね!
シエナが命を狙っているだけだったから、この令嬢は私達について来ても来なくても興味はなかった。
けれどあからさまに公子が本命だと態度に出すなんて!
こんな不敬な令嬢には、卑しい血の混じったシエナに無惨な死を与えられるのがお似合いね!
でも今は騎士団長をもう暫く引き止めておかないと。
そう思って口を開こうとした時。
「陛下、これを」
レジルスが懐から細長い棒を取り出した。
伸縮式かしら?
頭に陛下の親指程の魔石がついていて、魔石の中にチラリと見えるのは……紙?
字が書いてあるけれど、まさか新聞紙?
何か羽根の一部のような物を貼り付けて……。
騎士団長がスッと間に入る。
レジルスの手の平程の長さのソレを検分し、顔色を変えて陛下に渡す。
目の前の公子の眉間に皺が寄ったわ?
騎士団長といい、何なの?
「……この羽根は?」
「ご明察の通りです。
詳しく説明している暇はありません。
不測で幸運な機会を逃さない為に作ったものですが、緊急事態ですから仕方ありません。
非常に遺憾ではありますが、陛下はその魔法具を使えば一瞬で学園の外へ出られます。
本来は城の私の私室に直通でしたが、とある要請を受けたので。
それは学園の外用です」
学園の外用?
それ以外の場所用もあるのかしら?
それにレジルスは、それとなく自分に言い聞かせていない?
「騎士団に支給される要人の緊急避難用の杖を改良し、更に改良した物です。
魔法は阻害されていますが、魔力を通すだけの魔法具なら発動できるでしょう。
通常の物と違い、生活魔法発動レベルの魔力量ですみます」
何ですって?!
やっぱり魔法具は使えるの?!
そもそも転移できるような高性能な魔法具が、そんなにも少ない魔力でどうやったら発動するのよ?!
「……不測で幸運な機会とは?」
「もちろん独創的な表情をした公女を見つけたら、言葉を尽くせば連れ出せ……」
なのに陛下は魔法具よりもレジルスの言葉の方を気にしている?
陛下にしては珍しく表情を出しているけれど、その顔はドン引きというものでは?
レジルスの発言も何なの?
独創的?
公女って、もしかしてロブール公女?
「陛下、今すぐそれを使って脱出を!
第一王子がこれ以上の失言、んんっ、発言をする前に!
共にする者はすぐに陛下に触れて下さい!」
「そうしよう」
「待っ……」
レジルスの言葉を遮ったロブール公子の声にハッとする。
失言を言い直した事といい、意味がわからな過ぎて反応が遅れてしまったじゃない!
護衛騎士達は即座に陛下に触れ、陛下は私の肩を掴む。
制止しようとした私の声は、魔法具に躊躇なく魔力を流した陛下によって虚しくかき消された。