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462.麺〜教皇side

「音波狼って、あの骨と皮だけの魔獣?

食べる部分があるの?」

「は、はい!

身ではなく、骨から濃厚な出汁を取るんです!」


 ジェシティナ王女がラーメンの説明書を片手に尋ねると、黒髪おさげの眼鏡女子店員が緊張からかどこか必死な面持ちで答える。


 元気な掛け声だった男子店員は私達を中へ通すと、最後尾と書かれたお手製らしきプラカードと説明書数枚を持って、店外で待機している。

私をここまで案内していた男子生徒会役員は席を外した。


 説明書には豚骨風ラーメンに添えるアイスプラントとやらも書かれている。

毎年夏に忍んで食べている、期間限定開店するとあるパフェ店で今夏食べたラビリンパフェの頂点に君臨していたミント代わりの草では?


 ハッ!

まさかラビリンパフェとは、ラビ様が関わって……。


「めめめ、麺の硬さはオーダー表にある通りです!

一般来客には、テーブルに設置してあるオーダー表に麺の硬さを自分で書きこんで、店員に渡すシステムになります!」


 内心、ラビ様の暗躍の気配に驚きそうになったものの、早口で話す店員の声で我に返る。

随分と緊張しているが、無理もないか。

王族に、運命の恋人達、教皇まで揃っているのだから。


 それとなくシャローナの後ろに控える護衛の男が、呆れたような、応援するかのような視線をこの店員に注いでいる。


 改めて護衛を見れば……瞳に幻覚魔法を使っている?

それに男からは、僅かだが魔獣の気配も漂う。

護衛だし、獣躁魔法でも使うのだろうか?


「ふふふ、そんなに緊張しないで?

ほら、肩の力を抜いて?

ラビアンジェが、孫がお世話になっているわ

素敵な試みね」

「は、はい。

あの、私の方こそ、公女にはいつも美味しいご飯を頂いてます」


「まあ、ラビアンジェの料理!」

「はい、公女はとっても料理上手なので。

豚骨風ラーメンを考案したのも公女です。

それに店内の配置をアドバイスしてくれたのも公女なんですよ」


 シャローナが穏やかに微笑みかければ、いくらか力が抜けたらしい。

ペコリと会釈してはにかむこの店員は、もしかしたらラビ様のチーム、その名もチーム腹ペコと影で呼ばれるメンバーの1人だったのではと気づく。


 立ち食いをコンセプトにしているらしく、椅子を設置してある席はこの一角だけのようだ。

恐らく最上位の貴賓となる私達が去れば、この席も立ち食いスタイルにするのだろう。


 品行方正なスタイルで食事を取る高位貴族より、下位貴族や平民を客層に見据えている。

ナックスの話では、既に城下で豚骨風ラーメンが話題になっているらしいから、結局高位貴族も来店すると思うが。


 何より混む事を予想し、客の回転を早くする狙いが大きいのではないだろうか。

確か近い将来、豚骨風ラーメンを城下に出店する計画があるとも聞いた。

試運転を兼ねた戦略。

さすがラビ様。


「そうか、孫が……」

「はい。

えと、ラーメンですが、味は1つで麺の硬さがそちらに書いてある通りに選べます」


 憎らしいソビエッシュの、感慨深そうな声音で孫発言に眉根が寄りそうになった。

都合の良いところで、ラビ様を放置したお前が孫と言うな。


 手にしていた説明書を瞬時に読み解く。

いけ好かない2人に負けてなるものか。


「私はバリカタでお願いします」


 初めから知ってましたよ、という体で微笑みかける。

本心では無難な普通が良いと思いつつ、それではラビ様にチャレンジ精神がないとガッカリされそうだからと(ツウ)を装った。


「私とジェシティナは普通でお願いします」


 王女と顔を見合わせて頷いた王子が無難な方を選んだ。


「私達は……」

「ふむ、おすすめはどれかな?」


 残る夫妻。

戸惑い気味の妻に代わり、夫であるソビエッシュが微笑みながら店員に話しかけた。


「少し硬めのパスタが好きな方は、バリカタ、そうでない方は普通がおすすめです」

「そうか。

なら私はバリカタ、シャローナは普通が良いだろう」


 元々シャローナに興味のなかったソビエッシュは、王女だった姫様の望みを叶えるべく、妻として長年連れ添った事で、好みも熟知するようになったらしい。


「オーダー!

普通3、バリカタ2!」

「「「ハイヨー!」」」


 どうやらもの凄く元気な受け答えもコンセプトらしい。


 私達の戸惑いに気づかないまま、オーダーされ、ドンと出された豚骨風ラーメン


「「「「「これが……」」」」


 香りはもちろん、白濁したスープにパカッと割れたゆで卵、アクセントのアイスプラントのグリーンは当然のように食欲をそそった。

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