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426.母心〜ジョシュアside

「ねえ、ジョシュア。

年が明けるとすぐに学園祭があるわね」

「……そうですね」


 第二王子である私は父上の命により、王立学園の休学を命じられ、王城の敷地の外れにある小さな離宮で謹慎させられている。


 もうどれくらいの時間が流れたのか……。


 休学した表向きの理由は心身の不調。


 しかし本当の理由は……ああ、どうしてこうなったのか。


 母上はこうして時折ふらりと現れては、私に無理難題を押しつけようとする。


 今の私には不可能だ。

なのに私はどうしてか逆らえない。


「学園祭に行って、ロブール公女に会いなさい」


 私が受け継いだ母上の碧い双眸が私の目をひたと見据え、告げてくる。

やはりいつもの催促だ。


 最近は私の体を気遣う事もなく、要件を伝えるのみとなっている。


「休学中の身です。

父上もお許しになりません」

「ジョシュア、何を言っているの?

公女と表立って会う必要はないのよ?」

「……どういう意味ですか」


 含みを持たせた言い方だが、言いたい事はわかっている。

それでも心の何処かで否定したい。


「学園祭では外部から多くの来客が訪れるわ。

紛れて秘密裏に会えば良いじゃない。

そう、2人きりで」


 それでもこうして何度も私の希望は打ち砕かれる。


 そう、これまでに母上は、何度もラビアンジェ=ロブール公女と再び婚約するように、いや、とにかく子を()せと暗にほのめかしてきた。


 母上は側妃とはいえ、国王陛下の妃だ。

稀代の悪女の母親のような、側室ではない。

立派な王家の一員だ。


 なのになんという話を、仮にも息子である私に命じるのか……。


「しかし父上と王妃も来賓として学園祭に訪れます。

兄上だっている。

兄上はロブール公女に執着しているのでしょう?

今では学園で私の指示に従う者もおりません。

公女を誘い出せるとは思えない」


 そうだ。

そもそも冷遇された王子に手を貸す者だって、もう誰もいない。


 私に生涯の忠誠を尽くすと誓い、己の剣を捧げたはずのヘインズも然り。


 ヘインズは今の身分が平民だと言っていた。

秋頃、久しぶりに会ったヘインズが私に向けた空色の瞳は、敵意で染まっていた。


 まるでそうなった責任は、全てが私のせいだと言わんばかりで驚いた。


 しかし私はヘインズの父親であるアッシェ公に、第二王子としてヘインズへの恩赦を求めると手紙を送っていたのだ。


 にも拘らず、アッシェ公は私の手紙を無視してヘインズに沙汰を下した。

全てがアッシェ公の独断ではないか。


 そんな事も理解できず、平民堕ちを全て私のせいにするとはな。

ヘインズの忠誠心は、所詮その程度だったという事だ。


 今のように冷遇されてから、身に沁みてわかった。

結局は身分なのだろう。


 王位を得る可能性が高い王子として返り咲かなければ、私はこのまま父上どころか、貴族達にも忘れられる。


「まあ、ジョシュア?」


 息子の私から見ても、年齢を感じさせない少女のような可愛らしい面立ちが、驚いたように目を丸くする。


「廃嫡されたいの?

何度も教えたでしょう。

学園を休学するような王族は、これまでにいなかったの」

「私の意思では……」

「陛下が命じたからこそ、問題なんじゃない。

それに学園での差別意識の増長も、ロブール公女が蠱毒の箱庭に転移したあの事故も、全て第二王子であるあなたの責任にされたのよ。

このまま何も手を打たず、休学を続けてみなさいな。

あなたは汚名を着せられたまま、貴族達からも忘れられていく。

時期を見て陛下が廃嫡しても、誰も気にしなくなるわ。

それどころか、療養中という公表をしたのだから……ね?」


 不意に、母上の碧眼が濁ったように見えた。

どうしてかわからないが、華奢な体が大きく見え、見えない圧が発せられているかのように感じる。


 もうずっとこうだ。

こんな風に感じた時には、母上の言葉を否定したくとも、真実を話しているのだと信じてしまう。


 全て私を案じてくれる母心からなのだと。


 そうだ、父上は血の繋がりがあってもこの国の国王陛下だ。


 私のように醜聞に塗れた王子など、廃嫡どころかこのまま療養中に病死した事にして、存在そのものを消しにかかられる可能性だってあり得る。

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