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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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364.取り乱すのは〜教皇side

__バチ。


 雷が放電したような音に、我に返る。


「ああ、いけませんね」


 得てして穏やかに、独りごちて、荒ぶりかけた魔力を抑える。


 姫様がいなくなってから、あの方を取り返す為、様々な禁術と呼ばれる類の魔法に手を染めた。

思っていた通り、かつては国教だったこの教会には、闇の部分が多々あった。


 この魔力は、そうした魔法で魔力を高めたもの。

だからか、感情が高ぶると魔力が暴走しやすい。

もちろん幼子のような、少し前に学園で多発した魔力暴走のような状態にまではならない。


 元々あった魅了する力以外は。


 ただこの力が増してしまったのは、暑苦しい視線を注がれる以外、正直嬉しい誤算だ。

お陰でこの地位に着くのも早まったし、前教皇から多くの禁術を学べた。


 姫様を取り返せるかもしれない、そうでなければこの国など滅ぼしてしまおう。


 そんな常軌を逸した想いは、決して消える事はなく、深く、色濃く燻らせていき、もう何十年もの時が過ぎた。


 姫様を死に追いやった原因(あの女)が、自業自得で魂ごと消失した事を知ってからも、随分と経ってしまった。


 あの女を許す事は永劫ない。

しかしその副産物で姫様を蘇らせる手段を得た事は、素直に嬉しいと感じた。


 この希望に縋れたから、これまで仁徳のある教皇として、表向きは振る舞えた。


「もうじきです、姫様」


 きっと今の私は、未来の至福の時を想って恍惚とした表情を……。


 ふと、あの公女の変た、いや、恍惚とした表情を思い出して、真顔に戻す。


 ……気をつけよう。

それとなく、どうしようもなく、しょうもない呪いにかかっていないだろうか……何のかは、わからないけれど。


「コホン。

あまり1人で待たせるのも、可哀想ですね」


 何となく咳払いをして、誰にともなく一言告げてから、公女のいる地下へと転移する。

ここは私が密かに禁術を学び、試してきた場所。


 あの庭園の中の隠した温室からは、直通でここに転移するよう転移陣を仕込んであった。

あくまで私の利便性の為だった。


 教皇としての業務と禁術を学ぶ合間に、かつて姫様が興味を示した、手に入れ難く、絶滅したとされる草花を集めて育てる為。

毒草や禍々しい見た目ばかりになったのは、たまたまだ。


 もちろん美しい草花も、真の主である姫様の庭園で、神官達に育てさせている。


 全ては、姫様がいつか帰ってきた時の為。

絶望した心のまま、帰ってくるかもしれないから、少しでも癒やしとなる事を願って。


 そんな事情から温室だけは、誰かが迷いこむだけでなく、誤作動で私以外が転移した場合は、全ての魔法が無効化するよう細工していた。

そんな事にはならないと思いながら。


 公女が転移したのは、恐らく王子が魔法で無理矢理干渉しようとした結果だ。


 公女を狙う私にとっては、幸運な誤作動。

どうやら天はいよいよ、私に姫様を返してくれる気になったのかもしれない。


 1度深く息を吸って、吐く。

いつぶりだろうか。

こんなにも感情が興奮し、歓喜に震えるのは。


 目線の高さにある、岩に描いた小さな魔法陣に触れ、重量のある大きな扉を開ける。


「まあまあ、どなた?」


 魔法で明かりをしっかり取った室内で、懐かしい藍色の瞳の少女は、私の仮眠用ベッドに腰を下ろしている。

一緒に転移してきたのか、足元に無造作に置かれた鞄。

そしてそこから取り出したのだろう。

本を手に取って腹に見せるように……腹、膨れていないかな?


「えっと……その腹はどうされたのかな?」

「うふふ、もうじき生まれますのよ」


 そう言って臨月らしい、膨れた腹を擦る。

その顔は、母性に溢れていて、美し……ではなくて!


「ち、父親はどなたでしょう?」

「さあ?

でも生まれれば、きっと立派に育ちましてよ」


 えっと……え?


 まさかの展開過ぎて、理解が追いつかない。


「ラビアンジェ=ロブール公女、ですよね?」

「左様でしてよ?」


 本人確認してみれば、何を言っているんだコイツ、みたいな顔でコテリと首を傾げている。


 どうでもいいけれど、どうしてそっちが落ち着いているんだろう?

取り乱すのは、そちらであるべきじゃないだろうか?

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