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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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334.静かな殺意〜国王side

「陛下」


 先に知らせるかのように、魔力を感じさせる風が吹く。

数秒遅れて余を呼んだのは、余の息子の1人。


「何用だ、レジルス」


 自室に余の許しなく、転移をする者など、そうはおらぬ。

当然だがこの部屋は、許可した者以外の侵入を拒むよう、阻害魔法をかけてある。

つまりはそういう事だ。


「ロブール当主夫妻について、何かご存知なのでは?」

「知らぬ事も知る事もあるが、して、何が言いたいのか」


 相変わらずかの公女が絡むと、全能力を全振りして動くな。

これが所謂(いわゆる)、初恋馬鹿というやつか?


 余は産まれながらに、王となるべく育てられた。

故にその手の感情の機微には疎い。

王妃も側妃も立場上、各々の役割に合った労いや気にかけはするものの、一般的な恋や愛がわからぬ。


 家族愛というものは、子供達のお陰か、少なからず理解できた。

だが王という立場から、子供達を判断する事も多い故、これがどういった類の感情かは判別できぬのが、正直なところよ。


「……ミハイル=ロブールと共に居ました」


 ロブール公爵家次期当主が、当主に報告した内容を、余が知っている可能性を加味した言葉選びに、内心ほくそ笑む。

国王としての余へ警戒心を抱くのは、継承権を持つ者として、必要な心得。


「そうか」


 余は王族としての血筋が高貴だなどとは、信じてはおらぬ。


 父__先代国王は離宮と称した建物で、余が物心つく頃には、完全に閉じこもっておった。

貴族が時折、アトリエと称して建てるような小さめの別荘程度の大きさであった。


 余が19才となった年の早春。

即位式の際、背後に先代ロブール公爵、両側に2人の先代王妃に挟まれて過ごす先代国王を見たのが、記憶の中では最初で最後であった。

随分と憔悴し、周囲に怯えた視線を向けて小刻みに震える、実年齢よりずっと老けた男であった。


 2人おる異母弟はどうであったかわからぬ。

長子である余に限っては、初めて見る男に対し、息子としてのなにかしらの感情は、何も湧かなんだ。


 父である先代国王よりも、この時は先代ロブール公爵の方が気になった。

静かな殺意と称するのが相応しい、冷徹な瞳を仮にも国王であった男に向けておったからだ。

理由が全くわからなかったのだ。


 祖父__先々代の国王は余の即位後、数ヶ月の内に王城の端に小さな離宮を建て、そこで余生を過ごした。


 長らくの間、息子である先代国王を建前上は表に立たせ、影となって実質的な執政を担ってきたが、実にあっさりとした幕引きであった。


 そして蟄居前夜であった。


 先代国王の居所の真横に、ひっそりと建てられた離宮に、余は呼び出された。


 そうして稀代の悪女と名高い亡き王女について、先々代国王は、いや、祖父は初めて自ら語った。


 何故亡くなったのか、何故このロベニア国の聖獣が、誰とも契約せず、まともに姿を現さなくなったのかを。

その話の過程で、運命の恋人達と呼ばれ、人々の祝福を受けて夫婦となった、かの夫妻の犠牲も知る事になる。


 あまりに衝撃的な事実に、その後どのようにして本城の自室に戻ったのか、記憶はあやふやであった。


 ただ離宮を出る時、窓から先代国王の居所を視界に映して、気づいた。


 先代国王は、もうずっとそこで幽閉されておったのだ。

そして先々代国王が、祖父が建てて移り住む離宮は、自ら息子を監視し、娘に懺悔し続ける為に建てたのだと。


 その後2年も経たない、晩冬のある朝。

2人が亡くなったと、王太后となった母より知らされた。

亡き当人達の希望により、王太后が主導で王座に就いた者とは思えぬ程、ひっそりとした王族のみでの葬儀を執り行った。


『あの方の命日を選びましたのね』

『ええ』


 寄り添うようにして共に立ち、土に埋もれていく棺を見やる、か細い2人。

同じ男の正妃であった前王妃の言葉に、王太后が頷いておった。


 余と余の王妃だけは、それが誰の命日であったのかを察した。


 しかしこの時何故にその2人が、即位式の際に先代ロブール公爵を彷彿とさせる瞳を、棺()()()に向けておるのか、不思議であった。


「すぐに知れるであろうから、教えてもよかろう。

かねてよりロブール公爵から請求のあった、離婚が成立した」

()()においてのみ、でしょうか」


 そう尋ねた息子が魔法呪による呪いで、一時的にかの離宮に隔離した事によって見つかった、アレを目にするまでは。

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