317.秘技、身代わりの術!
「あらあら?」
突然のキンキン声に振り向けば、ファルタン伯爵令嬢が潜んでいた場所から、魔法の高まりを感じる。
しか〜し!
ワンコ君のイラストイメージの為にと持って来ていたコレ!
結局出番は無いと思っていたけれど、ここで出番なのね!
この約1週間、寝る間も惜しんで小道具を作り出し、技術を磨いた甲斐があったわ!
「秘技、身代わりの術!」
ポケットに手をつっこみ、忍ばせていたグリップを掴んで、魔力を流しながらファルタン伯爵令嬢に向かって手首のスナップを利かせ、振る。
やっぱり茂みの辺りから、魔力の発動を感じる。
「きゃあ?!」
グリップからしなる青紫色の縄が飛び出して、目的の腰に巻きつく。
驚きの声は無視。
そのままグリップを引っ張り、盾にした。
「ひ、ひぃぃぃ?!」
__ガガガッ!
悲鳴と共に土壁が令嬢の前に現れ、予想通り魔法で飛ばされた風刃を土煙を上げて防ぐ。
見届けてから、グリップを握る手首をクイッとやって、縄を外す。
ふふふ、そう、これは魔法具、ザ・鞭!
素材は仕入れたばかりのバロメッツの蔦!
グリップは羊の棘!
もちろん棘先はちゃんと加工してあるから、持ち主には刺さらない安心、安全設計!
精魂こめて加工して、細工した、SとMの何がしかには必須の魔法具!
ほら、いつぞや魔法呪が見せた夢で、華麗な鞭捌きを目の当たりにしたじゃない?
しっかり研究&練習したんだから!
彼女の盾か、私の鞭が失敗したら、まともに魔法を使って防ぐつもりだったけれど、予想通りの成果ね。
彼女の実力がどの程度かは、ちゃんと前回のバロメッツ討伐で計測済みだったのよ。
「バッチリなフォーメーションね、ファルタン伯爵令嬢」
親指を立て、ウインクもお見舞いしちゃいましょう。
「ヒッ、た、盾に……そんな……」
「大丈夫!
あなたなら防げるって、信じていたから!」
安心したのね。
ショックを受けたようなお顔は解せないけれど、振り返って、そのままヘナヘナと座りこんでしまう。
防げるだけの実力が無ければ、身代わりの術も使わないのだから、自信持っていいのよ。
「ラビアンジェ!
仮にも令嬢を盾にするなんて、最低よ!」
「まあまあ?」
戯れでこちらの令嬢と共謀して、不意打ち的なタイミングで、娘に風刃を放つ母親も最低では?
なんて言おうと思ったけれど、思い直す。
長らく、というより、この人は産まれてこの方、親子らしい事はしてきていなかったはずだもの。
そう、きっと母親__私にとっては母方の祖母からも、まともな親子的交流は習っていなかったと思うわ。
戯れが本来、どの程度であるべきなのか。
加減なんて知らないのも、仕方ない事よね。
「ちょっと、その生温い目は何?!
気持ち悪い!」
「あらあら?
ついうっかり」
どうしてかしら?
1歩後退してしまったわ?
ちなみに共謀していたかどうかは、同じ茂みに潜んでいて、聖獣ちゃんの加護の力で気配を薄くしていたのだから、すぐにわかるわ。
ファルタン伯爵令嬢へ加護を与えたのは、自分の契約している聖獣ちゃんだもの。
彼女がこんなにも近くでその力を使っていれば、嫌でも気づいちゃう。
「うっ、うっ……酷い……でも……ごめんなさい……こんな事に……」
酷いのは、誰の何に対してかしら?
ちょっとどうとでも取れるから、判断できない。
でも……そうよねえ、出会い頭に自分の娘に魔法で攻撃する母親も稀でしょうし、きっとこうなる事は予想外だったのでしょうね。
「いいのよ。
ちょっと加減がわからない、親子愛を拗らせた異文化交流だもの」
ポン、と肩を叩いて、前髪に隠れ気味な空色の瞳を覗きこむ。
「……親子愛……異文化……ぁ……」
ブツブツ言いながら、目を白黒させ始めたから、落ち着きなさいと、優しく微笑んでみれば、今度はみるみるうちに茹でダコのような色彩に。
脳内の情報処理がスパークしたのかしら?
何かとうつむく事しかしないイメージだったけれど、今は私のお顔をガン見……まあまあ?
そのまま固まってしまった?
もしかして、また石化の呪い?
蠱毒の箱庭以来ね……自然解呪される……わよね?
「意味のわからない事を言わないで!
親子愛?!
気持ち悪い!
それより死にたく無ければ、ついて……」
「「見つけたぞ」」
あらあら、今度はダンディボイスがお母様の背後から2つ。
忙しいわ……早く帰りたいのに……。




