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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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300.母と教会と空色の瞳〜ミハイルside

「何事だ、ヘインズ」


 思わず顔を顰め、騒々しい元凶を見やる。


 ここ最近では珍しく、俺を真っ直ぐ見つめた空色の瞳を、正面から見据える。


「夫人は教会にいつから通ってるか把握しているか?

教会の人間が公女に近づこうとしてんの、知ってるか」


 ヘインズは少し躊躇うような素振りを見せたものの、いつもと明らかに様子が違う。

俺から決して視線を外さず、真摯に向き合ってくる。


 だが突然の話に、俺の方がついていけない。

こっちは週末に家庭内の問題が勃発して、その処理に頭を悩ませている。


 それに加えて、そろそろ生徒会副会長として、やらかすだけやらかして逃亡した生徒会長の代わりに、役員の引き継ぎと次期役員の選出、ああ、他にも卒業研究の準備もしなくては。


 などと少々現実的な事を考え、1度頭を冷静にする。


 だというのに元公子は、一体何の爆弾を投下しようとしてくれているんだ。


 と、最後に副会長以上の仕事をするハメになった、そもそもの元凶の1人に苦々しい目を向けた。


 一瞬たじろいだこいつは、そもそもの元凶である第2王子と蠱毒の箱庭へと忍びこんだ。

装備不足、何より力量が相当不足しているのにも関わらず、だ。

見習いとはいえ、騎士団長の実父からも心構えを幼少期から叩きこまれていたはずだ。

なのに王族に仕える騎士を目指す者としてあるまじき一件だった。


 それでも首の皮一枚で生家に繋がって……ぶら下がっていた。

だが件の魔法呪の一件が重なり、アッシェ家からは夏休み中に除籍されていた。


 正式な公表は2学期になってすぐ。

俺は除籍直後に父の秘書官から知らされていた。


 夏休みが明けても登校しなかったから、てっきり出席日数も足りなくなって留年、からの、退学コースかと思っていた。


 しかし2学期が始まって(ひと)月が過ぎた頃、4年Aクラスにひょっこり顔を出した。


 その表情は、自らの護衛騎士としての未来を信じ、疑ってすらいなかった頃のような、快活な表情では決してない。

しかし蠱毒の箱庭事件が起こって以降に見せ続けた、仄暗く廃れた目でもなかった。

 

 学生達は皆、気にはなっていただろう。

だが元となったが、公子であった事は間違いない。

誰も絡んで行く事もなく、腫れ物扱いで遠巻きにされていた。


 今の時期、俺達4年生の半数以上はまだ就職活動に勤しんでいる。

まだぎりぎり間に合うかもしれない、騎士としての道は既に諦めたのか?

稽古場に足を踏みこむ事もないようだ。

ある意味では、生徒会役員としての仕事に専念していたと思う。


 休みは多かったが、俺達の学年は、特に専攻科目は2学期以降、自習が多くなる。

これから真面目に学園に通えば卒業自体に問題はない。


「何故お前がそれを私に尋ねる?」


 ひとしきり現実逃避してから、ヘインズに問う。


「昨日、たまたま出先で、夫人と神官が話しているのを聞いた。

あの夫人が公女を連れて行く代わりに、自分を助けて欲しいと神官に縋っていたんだ」


 その言葉に、あの女が昨日何をして郊外の邸に居座ったか合点がいった。


 そういえば妹がぶっ飛んで来た時にも、神官がいたな。

レジルスからも、神官が面会に来た話は知らされている。


 長らくロブール家で虐待を受け、第2王子共々、王族にも冷遇されていた、だったか。

神官が妹へ直接に保護を申し出たらしい。


 まあ嘘ではない。

実際その通りの事が起こっていた。

もちろんロブール公爵家として、教会へ抗議はしておいた。


 しかし、だとすればわからない。

率先して虐待するどころか、殺害未遂すらも行った実母が、何故神官に助けを求める?

かなり以前から教会が接触していたのか?


 何より教会がそこまでして、妹の身柄を確保しようとする意味がわからない。


 あの日、妹からは放置しておけと言われた。

レジルスからの話もあって、それとなく妹の傍にいたからか、あの神官が絡んでくる事もなかった。


 ロブール公爵家といえど、さすがに信者の多い教会の上位神官に、何もなく物申す事はできない。


 実際神官も、孤児達が気になって訪れただの、公女が1人で山に入るのは如何なものかと常識的に判断しただけだと、妥当な話しかしていない。


 それに新種の魔獣まで出てきてしまった。

魔力の低い妹を助けたのだから、確かに妥当な判断と言える。

むしろ、その後の妹の奇行に付き合わせたのは、お気の毒様だったと同情しなくもない。


「詳しく状況を話してくれ」


 少なくとも以前のような、妹を蔑む色のない空色の瞳を確認して、そう尋ねた。

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