280.アイスプラント
「はぅっ、あたらしい植物のにおいする！」
私の頭がお気に入りの聖獣ディアナこと、ディアが地面に降りて、嬉しそうに叫ぶ。
かと思えば、アルマジロ特有の、コミカルなちょこちょこ走りで、斜面を先陣を切って行ってしまう。
「下は崖になっているから、気をつけるのよ〜」
念の為声をかけるけれど、落ちても丸くなれば甲羅が身を守ってくれるわね。
一説によると、アルマジロの甲羅は銃弾も弾くみたい。
前世知識よ。
魔法呪になりかけた時の白灰色だったあの子の体。
今では鮮やかな赤色基調の５色の光沢を放つ、甲羅と薄い朱色を纏う体毛に変わったわ。
ド派手なアルマジロちゃんね。
お陰で見失う事は無さそう。
前世のネットで見た伝説の鳳凰のような色をした、聖獣ヴァミリアから力を継承した影響よ。
聖獣ヴァミリアこと、リアちゃんはそのうちきっと復活して、私の前に現れるって約束してくれてるの。
その日の為にも、リアちゃんが大好きなＲ18禁小説を作っているわ。
更なるパワーアップの為に、今や新進気鋭のイラストレーターとなった元騎士見習いで、学園の先輩でもあるヘインズ＝アッシェを鍛えたのもその為よ。
主に王家の影のオネエ様が頑張ってくれたの。
経験豊富なオネエ様のお陰で、立派なＲ18禁イラストも描けるようになったわ。
これからもっと腕を上げるはず。
「お母さん、こっち！」
あら、リアちゃんに想いを馳せてゆっくりと下っていると、ディアに置いてけぼりにされそうになっちゃった。
私の事をお母さんて呼んでくれるの。
まだ幼いのに、ちゃんと私に気を使ってくれるなんて、うちの子は天使か！
最近は人の言葉を幾らか話し慣れて、少しずつたどたどしさが消えてきたわ。
日々成長していく天使も微笑ましいし、健やかな成長を願っているのは本当よ？
でもそんな幼い天使に滾る何かが、まだもう少しだけ、そのままでいて欲しいって囁くの。
もちろん胸に留めておくわ。
藍色に金の散るつぶらな瞳の天使は、私を見ながら早く早くと急かす。
「ほら、あれ！」
「あら、本当ね」
「やっぱり！
隊長すごい！」
すぐ後ろに転移して、ディアの視線の先を見てそう言うと、途端にディアが嬉々として駆け出す。
はぁ、あのちょこちょこ走りがまた可愛いの。
ふわふわ揺れる、甲羅からお目見えする腹毛もたまらん。
いつか必ず、鉄壁のガードを決めこむ子狐共々、腹毛を吸ってやるんだから！
闘志を内に燃やして、私も後に続く。
円形に密集した緑の群生に近寄って、観察する。
これよ、これ！
求めていた草に、頬が弛むわ。
「そろそろここらへんに新種が出来そうって、ドレッド隊長が教えてくれたものね」
「うん、隊長！」
ドレッド隊長の本当の名前はドラゴレナ。
ディアと同じく、土の魔法属性が強い聖獣。
それもあって、ディアの力の使い方を時々指南してくれるの。
この子も今ではすっかり隊長に懐いている。
「ふわぁ、しょっぱ〜い、おいし〜」
群生する葉っぱを噛じったディアはモグモグして、感激に目を丸くする。
私も小さく透明な粒のついたそれを１枚取って口に運んで、お味を吟味。
＿＿ザン……ザ……。
モグモグタイムをしていると、下からは波の音。
「おかあさん、おいしいね！」
「ええ、前世ぶりだけど、この塩味と、その中に感じる甘味が癖になるのよ。
それにこのシャキッとした食感も良いの。
これぞアイスプラント」
更に女子２人でもう１枚、また１枚と一株分を食べてしまう。
アイスプラントは、耐塩性のある多肉植物よ。
前世の私は中年に差しかかった頃、旦那さん共々太りやすくなったの。
そこでネットサーフィンして、この植物を知ったわ。
なんと！
生活習慣病を予防する魅惑の草！
血糖値の低下や抗酸化作用はもちろん、抗老化効果もあるって知ったわ！
何とかっていう物質が、痩身効果も持っているのですって。
物質の名前は忘れちゃった。
それにミネラルが豊富。
土壌からは塩分の他にミネラルを吸い上げる力も強いから、カリウムやマグネシウムなんかをたくさん葉っぱにためこむみたいね。
つまり、ここ、塩害地域の海岸に近い山、というか、既に崖の上なのだけれど、ここに自生した植物を使えば、卒業研究で使う綿花の他にも除塩できる植物となるって事よ。
