231.学園七不思議的な幽霊と義妹呪
「もしや他に魔法呪を見た事はないか?
呪いと魔力の違いがわかるのか?」
『呪いの塊目の当たりにしといて、この王子は何を言ってるんだろうね?』
そうよね、リアちゃん。
またまた首を傾げるわ。
それとなく期待の眼差しを向ける意味がわからないわ。
もちろん前々世でも、今世の幼い頃にも見たけれど、あなたも黒くなったワンコ君を見た時からわかっている素振りはあったわよね?
屋上に出てすぐ、アレを確認したら呪いを外に漏らさないようにしれっとこの建物の屋上にも聖属性の魔法で結界を張っていたでしょう。
ついでに外からわからないように目眩ましも防音もつけてある。
ずーっと高笑いしている義妹呪(命名ラビ)の声も漏れていないわ。
教師としては生徒達の安全に配慮した対応でもある。
魔法呪を見た学生にパニックを起こされたり、前回の転移騒動から時間を置かずによりによってこの類の物が出現したなんて知られたくないでしょうし。
……あらあら?
それはロブール公爵家も同じね。
養女とはいえ、第2公女がやらかしてしまった。
これはどこぞのニルティ家のように、裏取り引き案件?!
でも……。
結界の外側に意識を向ける。
きっとなるようになるし、するんでしょうね。
こういう時の対処は普段と違って早いのね、お父様。
それとも魔法バカだから魔法呪に興味を惹かれた?
どちらにしても、私は無才無能でいきましょう。
「呪いと魔力の違いでしたら、索敵魔法で魔獣と人を見分けるのと同じではないかしら。
呪いは魔力よりゾワゾワして何となく違いますわよね。
黒いですし。
魔法呪はお2人がそう仰ってましたし、アレを見ればそうとわかりましてよ?
でもある種の魔法具のような物ではないかしら。
魔法具は魔力を乗せたり纏わせたりしながら魔法回路を直接書きこみ、あるいは魔石やら羽根やら鱗やらを貼りつけたり埋めこんだりしますけれど、魔法呪は何かしらの負の感情を魔法で魂に染みこませて入れ物にセットしておりますのね。
憎しみを囁く黒い風とか霧っぽいのを取りこんでおりましたわ。
入れ物が生き物でないといけなのか、単なる物でも良いのかは知りませんことよ」
あくまで魔法具科の観点から話す。
「何故、魂だと?」
お兄様まで何を言っているのかしら?
「最初から生霊だと申し上げておりましてよ?」
「……そう……だな?」
どうして実の兄妹で見つめ合って首を傾げているのかしら?
「何故生霊だと思った?」
「半透明の人がうようよしておりましたから、学園七不思議的な幽霊というやつでしょう?
それのお顔がついているやつは生霊に決まってますわ!」
「……そうか」
胸を張って力説すれば、王子は納得してくれたみたいね。
「だが、お前は何故魂の中身がシエナとアル……アルジ……鎧鼠と入れ替わったと思った?」
簡単な名称を選んだわね、お兄様。
「アルマジロちゃんでしてよ。
目の色が違います。
向こうの目は黒くなって、こっちは赤くなりましたでしょう?
しかも義妹なら私に叩かれればもっと悲劇のヒドインを加速させるか、蔑むか、睨みつけるかのどれかしか致しません。
謝りませんし、心底怯える眼差しは意地でも向けませんわ」
「……それが判断基準……」
お兄様がいたたまれなそうな目を私の方に向ける意味がわからないわね?
足が砕けて移動はできなくなっているけれど、普通にこっちを見て高笑いしながら現在進行形で蔑み中よ?
「あとはハリセンで蔦を叩き切った時に何かが交差して引っこむ手応えがあったから、でしょうか」
「……なるほど」
『随分と簡単にどうとでも取れる説明で納得したね』
リアちゃんたら神妙なお顔のお兄様に呆れた声を投げないで?
王子はともかく、お兄様は魔法呪の事をほとんど知らないようだわ。
魔法呪は魔法具とよく似ている。
それは間違いないの。
怨嗟に染まりきれば核となる何かの瞳の色が漆黒に染まる。
核になるのは魔力を取りこませた魂だからどこかに目がついているか、もしくは私が目のない核を見た事ないだけね。
その魂を核として入れ物に入れこめば魔法呪が完成するわ。




