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228.まとめハリセン効果〜ミハイルside

「っ」


 背中と左の太ももに熱を感じてハッと目を開ける。


『死にたくない』

『生きたい』


 直前に、再び幼い声を聞いた気がした。


「あっははは、あはは、あははははは!!!!」

「ギャア!

ギャア!」


 しかし頭に響く不快なブレた声にそれはかき消え、反射的に体を起こし、自分がどこにいるか一瞬理解できなかった。


 見渡す限り一面の、黒いリコリス。

俺はそこに埋もれていたらしい。

そして目の前には次期公爵として切り捨てると覚悟を決めたシエナ。


 相変わらず下半身は埋もれていて、背を向けているせいか、表情はわからない。

嗤い狂いながら時折黒い花粉を撒き散らしている。


 いや、花粉のように見えるそれは悪意のこもった正に呪いの粒子だ。

それを浴びる度におぞましさを肌で感じる。


 そしてシエナの前には片膝をついた第1王子、レジルスが右手にハリセンを持ち、左手の札を前に掲げて何とか耐えていた。


 あの魔法具の雑さが事態の切迫感をとんでもなく無駄に緩和している……魔法具の製作者の兄としていたたまれない。


 それよりも、俺はどうして無事なんだ?

そう思って左の、そこについているポケットに手を入れれば、魔法具が熱を帯びている。


 背中に手をやれば、カサ、とした感触……いつの間にか札が貼られている?


 ピ、と後ろ手に外して見れば、実妹の魔力で貼りつけた痕跡。


 思い当たるのは初めてこの魔法呪に一撃を与え、脱兎のごとき逃走を計った時のすれ違い様だ。


 あの時していた耳栓といい、実妹は言葉そのまま手が速いらしい。


 よく見れば、この魔法回路だけは整然としたものになっていて、浄化の力を内に向かって閉じこめるのではなく……嘘だろ、ヤバいやつだ!


 何の役割かも、何故他の札が熱を帯びていたのかも一瞬で理解し、慌ててバッとその場に投げ捨て、身体強化しながらシエナを飛び越えてレジルスを肩に担いで走る。


「ミハイル?!」

「にがさないー」


 戸惑われても反応する余裕はない。

シエナの上半身も追いかけて来ている。

黒い茎や葉が束になった幾本もの蔦の中に再び混じっているのかもしれない。


 が、後ろを見る余裕も当然ない。


 レジルスのポケットにつっこまれた札を取り、それに向かって飛び降りながら投げ捨てた……俺も実妹同様に手が速くて良か……。


__カサ。


 レジルスの背中にも古新聞の感触?!。


「ラビアンジェー!」


 ふざけるな、と思わず名前を叫んでレジルスの体を離し、空中で身を捻って札を胸に抱えこむ。


 しかし……。


 あれ、この札は普通のやつか?!


 そう思った瞬間、甲羅の上に投げ捨てたあの札から始まり、連動して追いかけてきていたシエナや蔦に触れていた札が真っ赤な炎を吹いた。


「「ギャアアアアア」」


 黒鼠共々シエナが一気に炎に包まれる。


 黒い霧のような悪意も燃え、すぐさま灰へと変わって燃え消える。


 業火のような炎にまかれた魔法呪は、叫びながら暴れ、炎から逃げるように向こうに行ったかと思えば、こちらに走って来た?!


 だが魔法で風を起こして何とか衝撃を緩和しただけの、受け身すら取れずに無様に着地した俺には為す術もない。


 視界の端に映ったレジルスも、転がって衝撃を分散させたようだが魔法呪に侵されかけていたせいか咄嗟に動く事はできない。


 その時だ。


「まとめハリセン効果発動!

悪霊退散ー!!!!」


 バゴーン!!!!


 走りこんできた実妹が、恐らくなけなしの魔力で身体強化したんだろう。


 跳躍して炎鼠の顔をなかなかの鈍い大音量をあげながら叩き、後ろに吹っ飛ばした。


 まとめハリセン?

……ああ、腰に差してたハリセンを束にして両手で握ってるな。


 ……どんな効果だよ?!


 レジルスも呆気に取られた顔をしている。


 しかし俺達を全く気にせずに実妹は横倒れた黒鼠に、いや、その背中の触手から伸びて咲くシエナに走り寄り……。


「悪霊退散!」

「「ギャア!」」


 まずは触手と上半身の境をバゴンと叩き切ってからまとめハリセンは再び腰に装着。


「悪霊退散!

悪霊退散!

悪霊退散!」


 と、連呼しながら残した1つのハリセンでシエナへの連打を開始。


 黒鼠は倒れて火柱を上げているが、シエナの炎は消えていた。

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