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220.恍惚の変態〜ミハイルside

「……俺がしよう。

ラビアンジェは向こうを向いていなさい。

変態の恍惚……いや、とにかくさっさと始末しよう」


 全く何のプレイだ!!

実妹の破廉恥小説が、これ以上そちら方向にひた走ったらどうしてくれる!!


 実妹の方向からだと顔が見えていなくて良かったと心から安堵する。


「ふふふ、お兄様もハリセンを気に入りましたのね。

せっかくですから、音と手応えを楽しんで下さいな」


 ん?

そう言って俺を見る藍色の目はどことなく祖母を彷彿とさせるものに。


 何故だ?!

微笑ましそうに孫を見る慈愛の眼差しを妹は時々するが、何のタイミングで発動するかが読めない。


 淑女の微笑みとはまた違う。


 もし淑女らしい微笑みを浮かべて凪いだ目をしている時は、全く関係ない事を考えている。

心ここにあらず、目の前の対象に全く興味がない時だ。


 以前の俺は大抵そういう目を向けられていたから、平素との違いに気づいた頃には完全に実妹は俺への信用と興味を失っていた。


 だが悪意をもって接してきた対象が余程のいいがかりをつけてきた場合、心の深部までのぞき見るかのように冷たい目をして「まあまあ」「あらあら」を何度も使う。

そういう時は何かしらの圧を発している事もあり、実妹も幾らかの負の感情を持っているのだと感じている。


 それでも実妹は受けずに流す。


 俺が義妹の言葉を自分に都合良く解釈して実妹を責めた時は毎回そうやって流されていた。

これには早々に気づいたが、あの時は実妹への憤りや偏見が大きくて、反抗的な態度としか受け取れなかった。


 公女としての教養と責任は権利ごと放棄して脱兎のごとく逃げるのは達人レベルだ。

俺からも逃げ、相手にもされない俺は更に感情をもてあまし、怒りとしてぶつけ続けた。


 そういえば実妹が受け流さずにまともに相手にした奴らがいたな。

2人ともその場で何らかの制裁を確実に与えられていなかったか?

実妹の元婚約者でもあるあの第2王子と、そこの半透明ヘインズの素……あ、ただのヘインズか。


 第2王子があの細腕を故意に捻った時には決して逃げ口上を与えず、王子という権力を使う余地すら許さずに追い詰めたと聞いた。

その為にくすぶっていた周りからの王子への評価を名実共に落とし、慰謝料という名の大金も自ら交渉して第2王子に出させた。


 教師達から報告を受けた時に怪我には人知れず憤慨しつつも、実は少しばかりスカッとしたのは秘密だ。


 いつも受け流しているだけで実妹自身には何のダメージもないと理解していても、傍目にはやられてばかりのように見えてヤキモキしていた兄心からだ。


 ヘインズは生徒会室で手厳しく身の程をわからせたと第2王子から聞かされている。

もっとやんわりと回りくどい言い回しだったが、端的に言えばそういう事だ。


 それからだろう。

あれだけ目の敵にしていたヘインズは、今ではすっかり実妹を避けている。


 だが本当にそれだけだろうか?

もっと何かあるように思わせるくらいには、元騎士見習いを恐怖に陥れているような気がしてならない。


「お兄様?」

「あ、ああ、ありがとう。

では……悪霊退散!!」


 考え事をしている時ではなかったな。


 我に返って落としていたハリセンを拾い上げ、それを変態の胸元にある同化したリコリスに振り下ろせば、バシン!と小気味よい、乾いた音がした。

ビクンと変態の体が一瞬硬直し、弛緩して大人しくなり、結界の向こう側の頭の方から半透明な帯状の魔力が飛び出し始めた。


 横目でそれを確認するも表情は見る気にならず、胸元を中心に視線を注ぐよう努める。


 まずは実妹が変態を垣間見る前に退治だと言い聞かせれば、起動ワードを叫んでも恥ずかしさはしれている。


 というか最初にハリセンで吹っ飛ばした時から今に至るまで暗く鋭い眼差しを変態へと向け続ける王子は全く羞恥がなかったのか?

あれだけ人を人知れず笑っていたくせにと、実妹の真後ろに立ってポーカーフェイスな男にいささかイラッとしたのも、秘密にしておこう。


『……!!

……!!』


 不意に結界のこちら側の変態から真っ黒な風が吹き出し、結界にはまったまま声なき声を上げて手足をバタつかせ始めた。

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