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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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178.在りし日の夢

『ベル……ううん、まだ名も無き僕の愛し子……早く逢いたい。

ずっと待ってたんだ。

あ、でも慌てないで。

体が熟してから……でも……どうか無事に産まれておいで』


 真っ暗な中で聞こえた声。


 これは在りし日のキャスちゃんね。

この時は既に私を愛し子認定して仮契約していたの。


 まだ私が親指サイズでぷかぷか母親の胎内で漂っていたあの頃から、誕生を心待ちにしてくれていたわ。


『ベル……名もなき愛し子よ……やっと……。

それにしてもあの性悪狐め。

俺達に黙って真っ先に愛し子にして仮契約とは、必死だな。

ふん、まあいい。

俺も他の奴らが気づくまで黙っているか。

2番目に契約するのはこのラグォンドルとだ。

今は愛し子として仮契約だが、産まれたあかつきには再び……』


 そろそろお腹の中が窮屈になってきた頃だったわ。


 ラグちゃんも、そう言って私がこの世界に戻って来たのを他の聖獣ちゃん達と愉快な仲間達に黙ってたんだもの。

キャスちゃんとおあいこよ。


 でもこの時は正しく意味を理解していなかったの。


 他の聖獣ちゃん達全員がベルジャンヌ時代の四大公爵家当主達とそれぞれ契約を破棄してたなんて知らなかったんだもの。


『おにい様はおとうとでもいもうとでも、うまれてくれたらうれしいよ。

はやくあいたいな』


 いつも母体が眠っている時を見計らって、こんな純粋な言葉をかけてくれていたのは在りし日のお兄様。


 この頃は少したどたどしい幼い声が可愛らしくて、私も早く会いたかったのよ。


 そう……これは在りし日を夢に見ているのね。


『男よ。

今度こそロブール家の全ての色を持った男……。

そうでなければお前に存在価値はないのよ』


 あらあら、これまでの誰とも随分と様子が違うこの声。


 これは在りし日の真っ暗な中で聞いた……今世の母親の呪いね。

あの頃から現在進行形で歪みっぷりがひた走っているって、ある意味執念というべきか……しつこいわよね。


 この世界に藁人形システムがあったら、絶対に手を染めていたんじゃないかしら。


 別に本当に呪いをかけられているわけじゃないから、安心してちょうだい。


『いいこと、今度こそ当主の、ソビエッシュ様の色を全て持った男児を産むのよ、ルシアナ。

それこそが貴女の役目』


 そうそう、この時はまだお祖父様がロブール公爵家当主だったの。


 支配的な声でそんな事を言う彼女が来ると、帰った後には決まって娘である母体は自室に引きこもって呪いスタイルを決めこんでいたのよ。


 今はもうお亡くなりになったらしい、もう1人の今世の血縁上の祖母。

結局()()()以降、いいえ、あの日も会ってはいないわね。


 1度も会う事もなく、夫である侯爵によって遠く離れたどこかで静養()()()()()、今世の私とは縁が無かった人。


 懐かしいわ。


 彼女、娘が産気づいた時に偶然その場にいて、娘のたっての希望で私が産まれるまで付き添っていたの。


 そしていざ私を取り上げた産婆さんから性別を聞かされた直後、その場で娘に詰め寄ってシャロ……お祖母様の静止も聞かずに激しく罵倒したわ。


 挙げ句、勝手にショックを受けて倒れたのを気配で察した、初めての肺呼吸に必死だった私もちょっとびっくりよ。


 彼女の妹であるお祖母様も、何より良く知る姉の性格には何かしら不安だったんでしょうね。

静かだったし、私も頭がひしゃげる思いをして母体から出てくるのに必死で気づかなかったけれど、一緒に部屋の中で待機していたの。


 産湯で小綺麗にされた私を1番最初に抱いたのが()()シャローナだと彼女の懐かしい魔力で察した時は、感動したものよ。


 もちろん誰も私の心の機微なんて気づかなかったけれど。


 そうでなくても私の出産現場ってば、そこそこに修羅場だったから仕方ないわよね。


『……申し訳、ござい……ああ……どうして……』


 ベッドで産後の処置をされながら嘆く母親らしき声。


 この時はまだ目を開けていられなかったから、全て声や気配、魔力で察していたの。


 修羅場の世界に気を取られておざなりな産声しかあげなかったのを心配した産婆さんに気づいて、こんな状況なのに本格的に泣いてみた私はえらいと思うわ。


 だって修羅場はお邸だけじゃなかったのだもの。

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