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《書籍化、コミカライズ》稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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SS;伴侶と変態〜ラグォンドルside

日間100位ランクインのお礼SSです。

しばらくはなろうさんだけでの公開です。

「とうとうバレたか」

「まあ仕方ないよ。

でもまだ商会の方はバレてないから、いいんじゃない」


 俺の名はラグォンドル。

俺をラグちゃんと愛称で呼ぶ愛し子は、連日の徹夜続きが余程こたえたんだろう。

ベッドに転がってあどけない寝顔で爆睡中だ。


 左手に愛し子がくれたらしいシュシュなるものをはめた白い狐が胸の上で丸くなり、小さくなった俺が腹に頭を乗せて話していても、起きる気配がない。


 ふと少し前、人で言えば何十年も昔になるんだろうが、普段はラビと呼んでいるこの愛し子の前々世を思い出す。

 

 あの頃はまともに寝る事すらできない劣悪で、緊張を強いられ続ける環境で生きていた。

それでもベルジャンヌ、いや、ベルは様々な逆境に凛として耐え続けていた。


 そんなベルのあどけない寝顔を見たのはたった1度しかない。


 妻子を失い、我を忘れた俺が聖獣へと昇華したあの時の1度だけ。

寝顔といっても魔力を使い果たした末の、気絶に近かったと思う。


 そうなった原因の1つは俺だ。


 本来なら聖獣になり得る素養を持っていたとしても、元の種にもよるが数百年は生きなければ聖獣になれるだけの力を蓄える事はできない。


 特に蛇型魔獣は長命で、最低でも500年以上は必要だったと後にベルから聞いた。


 しかしだからといってただ生きれば自然になれるかというと、そうではない。


 長らく聖獣を務める者が力を分け与え、次代の聖獣に誰かを護ろうとする強い意思と、清浄かつ清廉なる莫大な魔力を持つ者との契約。

それらがあって初めて聖獣へと昇華するチャンスを得る。


 しかし失敗すれば待つのは死。


 俺の伴侶はそんな苦難を乗り越えた誇りある竜の聖獣だった。

伴侶がどうして俺を見初めたのかはわからないが、まあラビの言うところのラブラブだったと思う。


 俺はまだ百年と少し生きた程度の若造だったから、本来なら力は足りなかっただろう。


 だが俺が生まれたのは今では蠱毒の箱庭と呼ばれるような場所。

あの頃は特に結界魔法も張られておらず、ただ森と呼ばれて命知らずな冒険者もたまに現れた。


 あらゆる糧を食らい力を得て、また糧を食らっては力を得る。


 そんな魔獣らしい弱肉強食の世界で本能のままに、ただひたすら力を得る事を求めて生きた。


 そんな事を百年以上していれば、いつしかあの森で俺に勝てる魔獣はいなくなった。

図体も力もデカくなった俺に恐れをなして森から出る魔獣もいたが、特に蛙型の魔獣は激減していた。

俺が好んで食べまくったせいだ。


 後で知ったが、俺の食の好みのせいで爬虫類や両生類の型を取る魔獣が激減し、森が蟲だらけになっていて、生態系なるものが崩れつつあったようだ。


 そんな時伴侶に出会い、一瞬で魅せられた。

伴侶は今の俺とは違う薄金色の体躯で、瞳は紫色。

(たてがみ)は今の俺と同じだ。


 そして慢心していた俺は勝負を挑んだ。

魅せられた事など無かった俺は、それを食欲と勘違いした。

その頃は森で蛙を食べる機会も滅多に無く、余計早とちりした。


 この話は後に、声を出して笑う事が滅多に無かったベルを爆笑させた。


 まあそれはともかく、とにかくあの圧倒的輝きを放つ生き物を欲しいと思ったんだ。


 結果は圧倒的惨敗。


 今にして思えば相手は聖獣だから当然だが、その時伴侶は面白そうに俺を見て言った。


『随分威勢の良い子よな。

次に会う時まで何も食らわず生き延びてみよ。

さすれば話くらいは聞いてやる』


 実年齢を聞いたら尻尾で張り飛ばされ、顔だけ出して土に数年埋められた。

怖くて二度と聞いていないが、ざっと推察するに俺より数千年は上だったと思う。


 まあ数十年かけてすったもんだの末に俺達は伴侶として結ばれた。


 そしてあの胸糞悪い愚かな人間が現れ、伴侶はその当時卵から孵化したばかりの子供達と共に殺された。


 聖獣である伴侶があんな人間に殺されたのは、先に殺された俺に力を与えて生き返らせ、まだ孵化していない卵を守っていたからだ。


 あの時の事は今でも思い出せば憎悪に染まりそうになる。


 しかしその度に俺の中に宿る伴侶から受け継いだ力と、契約した事でそこに混ざったベルの清浄かつ清廉な魔力が俺を癒やし、正気に戻す。


 今では今世のラビの力も宿っていて、共に過ごす時間が更に俺を癒やし、それだけでなく愉しませてすらいる。


 伴侶は四公のアッシェ家の当主と契約していた。

しかしあの日、伴侶はベルを呼んだ。


 死にかけた聖獣と憎しみに怒り狂う俺というあの状況で、俺を聖獣へと昇華させられるほどの魔力を持つのが自分しかいなかったからだとベルは言ったが、それは違う。


 伴侶は間違いなく俺にベルとの契約を望んだ。


 ベルと契約して昇華したと同時に、俺の黒灰色の鱗は青銀の鱗に、真っ赤だった瞳は金の散った藍色の瞳に変わった。

そして伴侶と同じ白銀の鬣が首元から背中を走り、尾を彩る。


 伴侶を喪った日、俺は竜という名の聖獣となった。


「んー……へへへ、至高の吸い物ぉ〜……みつ編みドレッド〜……んふぇふぇふぇ……」


 いつぞやの危機感を煽る怪しい寝言が一瞬で俺を現実に回帰させ、ゾクリと震えて飛び上がって空中へ。

元凶から距離を取る。


 同じように浮いている白い狐と目が合い、そして下を見る。


「「……変態」」


 俺達が同時に呟いた事を、ニヤついた笑みを浮かべて眠る契約者は知らない。

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークや評価、感想は平身低頭して有り難くちょうだいしております。


勢いだけの見切り発車でここまで投稿してきましたが、応援していただいた皆様のお陰で投稿し忘れた日以外、毎日更新できました。

心から感謝しております。


そして別サイトにはなりますが、カクヨムさんの方で本日別のSSを投稿しています。

そこでラグが何を警戒して何故変態扱いしているのか書いているので、よろしければそちらものぞいてみてください。

https://kakuyomu.jp/works/16816452221256195664


次の章を投稿するまでの間に、少しお時間をいただくかもしれません。

その間に登場人物や相関をまとめたものを投稿するつもりです。

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