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110.資料の内容と自衛〜ジョシュアside

「あの時も証言しましたが、私は上級生達がわざと下級生の命を危険に曝したと、あの時見た光景から判断しています。

仮の話、証言しかなくとも下級生の全員がAクラスの高位貴族であったならば、1週間の停学などという甘い処分にはならなかったはずです」


 ちらりと婚約者の兄であるミハイルを窺えば、彼はいつの間にか隣で同じく当主代理を務めるウォートンから受け取っていた資料を見た後、仄暗い目で自らの担任となって4年目となる男を見つめていた。


「しかしあの時は明確な証拠もなく、上級生と下級生の担任である私と貴方以外にあの場を目撃した教師がいませんでした。

貴方は自分の生徒の方が被害者だとそう一蹴した。

確かに彼らは初めての魔獣の討伐でパニックに陥り、足を引っ張りましたからね。

私達教師が予測し得る範囲でしたが」

「それは……」

「別の教師がチーム腹ペコへの暴行現場を目撃していた上に、その上級生達にはこれまでにCクラス以上の生徒への暴行の訴えと証拠が提出されていたから処分がそうなっただけです。

Dクラスの生徒への安全配慮義務を怠ったという名目だけなら、むしろ停学1週間は厳しい。

些細な理由で重い罰を受けたと周りは見なしますから、上級生達もそれを甘んじて受けた。

決して合同討伐訓練で下級生らに命の危険をもたらした事への処分ではありません。

この学園がそう判断を下しました。

だから彼らの自己防衛は当然の結果ではありませんか?」


 遂に4年の担任は押し黙ってしまった。

いや、違う。

学園の者達全てが押し黙る。


「この学園は王立ですから。

Dクラスがどういう存在かもこの学園の生徒達は良くも悪くも理解しています。

Dクラスの生徒達も、もちろん私達教師も含めて。

ですから彼らはあくまで自己防衛を取っているだけです。

何も無ければ何も起こりませんし、それを制限する校則はありません」


 不意にミハイルが資料を差し出した。

私もそれに目を通し、愕然とする。


 資料は正式な調査報告書のような体を取っており、名前と得意な魔法の属性、体術や剣術、そして過去にどのような方法で被害を与えたかをわかりやすく明記されていた。


 その中には私が側近だと言っていた、現実には側近候補であるエンリケ=ニルティの名前もあった。

もちろんマイティカーナ=トワイラ、ペチュリム=ルーニャックの名前も。


 あのグループの唯一の救いはミナキュアラ=ウジーラの名前が要注意人物として無かった事か。


 私やミハイルを含めたそれぞれのグループの者達の名前はない。

安堵しつつも、やはり今日の2年Dクラスの生徒の警戒は私の婚約者への悪態からだったと確信を得たようで……人知れず落ちこむ。


 しかしAクラスの3割の名前を確認しながら、もちろん2年の担任の話にも耳を傾ける事は怠らない。


「しかし私は担任を受け持つ生徒だけでなく、この学園全ての生徒の教師だと思っています。

だからその資料に書いてあるような事態がそもそも起こらなければいい。

そう思って担任のあなたにこの資料を見ていただこうとしました。

あなたは端から聞こうともしませんでしたが」


 自分と目を合わせようとしなくなった4年の担任の顔を真っ直ぐ見つめながら、2年の担任は最後にそう締めくくった。


「貴族や平民の富裕層ともなれば、常から自衛を行うのは当然の権利。

Dクラスの者だからとその権利を放棄させたり、ましてや責める事などあってはならない。

経緯はわかった。

この資料に書いてある事は全て一方的な証言のみで、確たる物証等が無い事もな」


 弟の名前を確認しただろうウォートンが発言を続ける。

その表情からは弟を心配する兄の顔は……窺えない。


「この学園のDクラスの位置づけ、待遇については学園、もしくは監督する王族の問題だ。

私が学生の頃からの話だが、そちらの担任の言うようにこの学園は王立。

学園であっても身分の壁はあるのもまた当然。

当時の状況からその上級生のグループに課した懲罰は妥当だと私は支持する。

その資料の把握が2年Dクラスの担任と同学年主任のみだった事も、時間の無さからやむなしだろう。

4年Aクラスの担任には周知しようとしたようだし、むしろ彼女達は公平だった」


 冷めた緑灰の瞳に気づき、ビクリと4年の担任が体を震わせた。

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