99.お餞別
「はっ、やはり無能だな。
才能が公女に不必要な料理とは、同じ四公の出自とは思えないほど情けない。
いや、いっそ憐れか」
「いい加減にしないか、公子」
「黙れ、ウジーラ侯爵令嬢。
お前達こそ、いい加減にしろ。
この森から出れば結局は身分に支配されるとわかっていないのか。
これ以上このエンリケ=ニルティを愚弄する事は許さん」
まあまあ、家格君たら。
反抗期が全力疾走で駆け抜けてしまったのかしらね。
今度は殺気立って暴君化してしまったわ。
せっかく美味しい物を食べてお腹がみたされたのに、お婆ちゃんは残念よ。
でも仕方ないわ。
家格君は悪くないの。
ホルモンが悪いのよ。
でも金髪組は押し黙ってしまったし、お孫ちゃんは呆れたようにため息を吐いてしまったわ。
あちらのグループの空気はどんどん険悪になっていくわね。
うちのグループは既に興味は無さそう。
そうね、この1年うちのリーダーとサブリーダーは冒険者に混ざって場数を踏んだんですもの。
他のグループの仲間割れに遭遇したとしても、それに影響されないように襟を正しておくよう教わったはずよね。
これ、パーティーを組む冒険者には必須の心得なの。
いくつかのグループが一緒に行動するような依頼を受ける時は特にね。
他のグループの雰囲気が悪いのに一々影響されていると、自分のグループにそういうのが伝染しちゃうかもしれないでしょう?
悪意って極限状態に陥っている時ほど伝染しやすくなるのよ。
不思議よね。
だから冒険者としてパーティーを組む場合には最初にそれを教わるわ。
冒険者は貰い事故を何よりも嫌うし、悪意の伝染も例に漏れずよ。
そして眼鏡女子のカルティカちゃんは実際の冒険者のパーティーに入ったりはしていないけれど、グループのリーダー格2人を信用しているわ。
もちろんラルフ君はどこぞの家格君のように従うのを強制した事は1度もないの。
カルティカちゃんはラルフ君の人柄で従う事を選択している。
つまり人徳ってやつね。
でも皆気づいていないのかしら?
家格君はとっても大事な事を言ったのよ。
「公女、公子と同じグループのサブリーダーとして謝罪する。
すまない」
「「申し訳ございません」」
家格君以外の上級生は頭を下げてくれたわ。
「あらあら、ご丁寧にありがとう。
でも公子は褒めてくれたのだから、気にしなくてよろしくてよ」
淑女の微笑みを向けてみれば、全員が呆気に取られたお顔になったわ。
うちの子達もよ。
他ならぬ家格君が1人だけ怪訝そうなお顔だけれど、本人も気づかせずにいるなんて、私って凄いわ。
「ふふふ、だって料理が美味しかったってお話だったわ」
「はっ、相変わらず頭が足りないな。
別に褒めたわけじゃない」
私の言葉を全否定ね。
でも付き合ってあげる必要はもう無いみたい。
目があったラルフ君から目配せされてしまったもの。
「あらあら、左様でして?
なら私達グループからのお餞別はあなた以外の方にだけ渡すようにしますわ。
気に入らなければ自分で食料を確保すれば良いだけですもの」
「こ、公女、餞別って……」
その言葉に金髪君が反応したわ。
他の上級生達も戸惑っているみたいね。
「だって私達グループは明日にはここを離れるもの。
そうではなくて、リーダー?」
本来ならリーダーに一任するけれど、こちらの意向を示すきっかけくらいは身分が1番高い私が作るわ。
だって時間は有限ですもの。
特にこの森が明るい時間帯は短そうだから、きっと明日の早朝には出発するわ。
今のうちに準備しておかないとね。
「そうだな。
別グループの内輪揉めにいつまでも付き合ってはいられない。
助かった、公女」
「そうね。
ここを離れる準備もちゃんとしないといけないもの」
ふふふ、若者に褒められると婆心が舞い上がっちゃう。
「ふざけるな!
下級生が勝手に判断をして良いと……」
「ふざけているのはお前だ。
ここに留まる危険性は既に話した」
思い通りにならなかったからかしらね?
家格君てば興奮し過ぎてお話にならないわ。
ラルフ君もそう判断したのね。
しれっと彼の言葉を遮ったの。