3話
「では、シンリー王宮騎士庁に向かえと?」
「そうだ。ちなみに君の上司のジョージ君は、カイオー王宮騎士庁に向かってもらったよ」
「はあ、そうですか……」
「ところで君は言ってもらえるかな?」
「ええ。全然かまいませんが」
「ならよかった。残業代は弾むから期待しなよ」
「はい、じゃなかった、了解しました。ただいま、現行します」
彼女は敬礼したのちに、ここから急いで出る。
「失礼しました」
たったと走る音が聞こえる。まあ、距離はあるし急いでくれるならそれでもいいか。やる気があるのはいいことだし。
「期待しているよ。リンドウ・モモ騎視」
「そう宣言したのはいいけどよお、誰からやるんだ?」
「あら? やる気を出してくれてうれしいわ」
「どうせ強制的にさせるんだろ。だったら、やけくそだ」
「……まあ、潔いのは嫌いじゃないわ。今から行くのは、一番場所が遠い森林の王・ドデカのピロッコ城ね」
「大丈夫か? 1番近くから行った方が良くねぇか?」
「1番近いのが、大魔法使いと王国騎士庁長官とラスボスだったら?」
「一番マシって訳か」
「そういう事」
「……なんて言葉を信じた自分を殴りたい」
手製の、ボートを、手製のオールでこぎながら嘆く。
「?」
黒いコートに黒い仮面をつけてたたずむご主人が、疑問そうにこちらを見る。
「おい、お前。今どこにいるか知っているか?」
「海のど真ん中だけど?」
「今、誰倒しに行くつったよ」
「森林の王」
「真逆じゃねえか!!!」
「しっ! うっさいわね。バレたらどうするんだバカ!!!」
「イでっ!」
「考えあって、ここに来てるに決まっているでしょ」
こいつ本気で殴りやがって……
「あ? 考えだぁ?」
「ふっ、まあ今に見てなさい。とっておきの作戦用意しているんだから」
「ここは……水路か?」
「下水道。生活排水を流すところよ。知らないの?」
「いや下水道くらいは知ってるわ。なんで、ここに来たんだって聞いてんだよ。まさか下から攻めようっての?」
「その通り。この城さ、石垣の上に立っているのよ」
「知ってるしこの国に吸収される前に一度入ったことあるけどよお、ここの攻略は難しくないか? それも増したからって、山の中にあるんだし。難しくないか?」
「だからあんたがいるんでしょーが」
「それがわかんねーんだよ。だいたい」
「しっ」
そういいながらこいつは右耳に自分の指をあてて。
『誰か来た、しゃべらないで』
脳内に話しかけてきた。
「っ……」
「おい、今どこかで声しなかったか?」
「おいやめろよ。怖いだろ」
「たっく、お前はビビりなんだから」
……通り過ぎたか。
『私と同じポーズとって』
そういって、俺も同じポーズをする。
『これでいいのか?』
『それでよし』
『すげえな。いつのまにこんな魔法かけたのか?』
『私の奴隷因子は特別性なの』
『そうか』
『作戦を説明するわ。ポイントについたら、そこに私が穴をあけるわ。あとはあの穴を掘り進めなさい』
「はあぶっ」
あっぶな。
『おい馬鹿。全部お釈迦にするつもりかてめぇ』
こいつが口をふさいでなかったら、おっきなリアクションをとっていたかもしれない。てか、せっかく逃げきったのに、ここで死にかけるとかごめんだ。
『……穴を掘れって、何寝ぼけたことぬかしてんだよ』
『獣人だからいけるでしょ。たった10メートルよ』
『いけるわけねーだろ。ふざけんな』
指もげるわ。
『あら? じゃあ仕方ないわね。お金出そうと思ったけど……嫌ならこいつを使って』
『まあ、まて。いくらだ?』
『貴方の働き次第で変わるかもよ』
『……よし、乗った』
『ここね』
そういって彼女が地図をしまう。
『穴掘るのはいいが、お前はどうするんだ?』
『前にある階段を全力ダッシュで、登っていくわ。安心して、この城の形状は完全に把握してるから』
『あっそ。10メートル穴掘るだけでいいのか?』
『大丈夫よ、私が合図するまで待機して。合図したら地盤を崩落させて』
『りょーかい。まあ、何とかするわ』
『じゃあ、頑張ってね魔法砲』
ドーンとでかい轟音を立てながら瓦礫の山ができる。
「ちょ、分断されてるけど」
『早く行って。追手が来る』
『っ、わかった』
俺は急いで、瓦礫をつたいながら上に向かって穴を掘っていくのだった。
「さて、行ったか」
「おい貴様。ここで何をして……その瓦礫はなんだ? 貴様は誰だ?」
「だれ?」
パ─ンと重たい音と、カランコロンと金属音が鳴る。
こいつはすごい。魔力に頼らず鎧を着た人間をここまで簡単に殺れるとはね。
「私はノア。復讐者だ」
そう宣言すると、どたばたと騒がしい音が聞こえる。
よし。かかった。
そう思いながら、残弾を確認する。残りは、28発。予備で1発。ポケットの中にある貴金属系魔力ストックはたくさんある。
「これならいける」
「何!? 2〜5班が全滅だと!? わかった。すぐに向かう」
なんか、今来るのがまずかったかな……
んーあの時、早く出たけどタイミングって難しいなあ……
「シンリー宮廷騎士庁長官殿。何かありました?」
「君は」
「リンドウ・モモ騎視です」
敬礼しながら自分の身分をつたえる。
「ああ、君が王国騎士庁の」
「それで?」
「実はネズミが一匹入り込んでしまってね」
「手伝いましょうか?」
「いいや、必要ない。君も見てるといい。王国騎士庁に報告してくれたまえ。我らがいかに優秀かを」
随分と楽ね。
魔法弾を打ちながら、次々と騎士を吹き飛ばしていく。
これなら、予定より早く付きそうかな?
そう考えながら階段を駆け上がる。
あいつの部屋は確か、4階の奥。今は二階から三階に上がる階段。
この調子でいけば
ガチンと金属音と右腕に違和感を覚える。
「!?」
「捕まえたぞ侵入者。お縄についてもらう。って、え?」
困惑してるようね。そりゃあそうなるか。突然腹がえぐれているもの。
縄をナイフで切る。
ん?魔法封じの印があるとは、考えたな。
さっさとここから離れて、
「っ、貴様ァ!!!」
急に意識が覚醒したと思ったら、魔力弾が放たれてきた。
うおっと、あぶねえ
「な」
バーンと銃声が鳴ると同時に私も倒れる。
突然来たせいで、だいぶ変なよけ方になったが、まあ頭に当たったからよし。それにしても、グロイなあ。まるでつぶれたトマトのようだ。ぐちゃぐちゃといったほうがいい。
そんなことはどうでもいいか。この手錠をさっさと外して上に向かって。
「はあっ!!!」
「!?」
立ち上がろうとしたら、突然蹴り飛ばされてさらに立てなくなった。急いで敵の位置をは空きしようとあたりを見回す。そこにはくるっと一回転しながらきれいに着地する姿に私は見覚えがあった。
「王国騎士庁だ。神妙にお縄についてもらう」
っ、嘘でしょ……
何でここにモモがいるの……
「ああくそ。二つ返事でこんなこと受けるんじゃなかった」
穴を掘って数メートル入ったであろう。下に続く穴はちいさくなっていく。でもさすがに、手が痛い。手かスコップくらいくれやあ。絶対金ぶんどってやるからな。
さて、どうする。
私は立ち上がり、考える。
「騎士庁長官……騎士殺しは重罪だ。でも、自首するなら減刑できる可能性があるぞ。今なら弁護士もつけよう」
相手はモモ。ここから逃げようにも絶対無理。
ちらりと銃に目を向ける。
残弾は残り3、スペア1。だからと言って、こいつをあの子に使うわけにはいかない。
「さあ、武器を捨てて投降しろ」
ひしゃげた手錠に目を向ける。
よし、
銃を向ける。
「そうか、残念だ」
はやっ!
急いで、右腕で受けようとするが、
間に合わな
吹き飛ばされ、壁に思いっきりぶち当たる。
「ごはッ!!!」
まったく。いつもの私生活や、私とじゃれあってるときにいかに加減してるかわかる。
キッツぅ……
「これで完全に落とすつもりだったんですがね。落ちないなら、もう一発」
ドゴーンと轟音が鳴るとともに、壁に大きなクレーターができる。
犯罪者殺す気かこの馬鹿。いや、いつものことだったわ。じゃなくて、今私がその犯罪者じゃん!
「よけないでください」
急いで体勢を立て直す。
ほんと容赦ないなこの子。先輩としては誇らしいけど、ほんと相手したくねぇな……
「いい加減にしてください。罪を重ねるだけですよ」
「っ」
右腕を見る。手錠はあと少しか……やる気なくすわ。どんだけ頑丈なんだよ。あれもう一回受けないといけないのは嫌すぎる。でも、
捕まったところで死ぬのは変わりない。
なら、
バックステップで距離をとり、手を前後にして挑発する。
「挑発ですか? なら、受けて立ちますよ」
よし、
「……はッ」
き
「はあっ!!!」
たっ、
右腕に、手錠に彼女の正拳が当たる。
さらに追い打ちをかけてくる彼女の拳を紙一重でよける。
魔法は再び使えるようになった。なら、
急いで、指を鳴らす。
「っ」
一瞬彼女の動きが硬直する。その、隙を私は見逃さない。
「眠れ」
「っ、あっ」
一瞬にらまれたが、すぐさま彼女は眠ってしまう。
「ふぅ……ってえ!!!」
右手を酷使し過ぎた。泣きそう。でもあきらめない。早く上がらないと。
そう思いながら階段を駆け上がる。
今は、さっさと作戦を解決。そのあとのことは、あとで考えればいい。
暗い夜中。火が消えたので、執事につけさせに行ったのだが、
「おいきみ、そこのきみだ。一体、下はどうなってるんだ? 長官はいったいどこにいったんだ」
「ドデカ様。今、執事一同で全身全霊を持って探しに向かっているであります。なのでしょうsy」
何かを言いかけた執事の一人が、血を体から吹き出しながら倒れこんだ。ほかの執事も同様だ。あたりは死屍累々と貸している。
「!? おい、おまえ!!! しっかりしろ!!!」
「おやおや。下の者が死んで、随分取り乱すではありませんか。森林王と言われるお方が。まあ、あなたもその一人になるのですが」
黒い仮面、黒いコート。黒に包まれた少女がそこにいた。
「誰だ貴様は!!!」
暗殺者か? そう思いながら警戒した。しかし、少女は急に仮面を取り外し、
「貴様とは図をわきまえなさい。あなたにそのようなこと言われる筋合いはないですよ」
まさか!?
「貴方様は、アザミお嬢様」
「寂しいですよ、私は。貴方は私の直属の従者であったはず。なのに」
「違うのです。これには」
「御託はいい。言い訳も聞かぬ。……言い訳など、反省していないことがよく分かった」
「アザミお嬢様!!!」
私は、右耳に手を当てる。
「やれ」
「!? 城が。アサギリ様の作品が」
「この城はわが父上がこの国の民の発展を願い作ったもの。お前がいてよい場所ではない」
「違うのです!!! 。貴方は、誤解しています!!!」
「言い訳は聞かないといったであろうにドデカ。二度も言わせるな」
「しかし、私は、わが師の、貴方の父の思いを組み」
「くどい!!! それに貴様が何と言おうと、私の気は変わらぬ」
床が崩れる。
「何がわが師の思いを組んだだ、笑わせるな。お前も一緒に殺したではないか」
「ちが」
頭が吹き飛ぶ。
「……信じていたよ。あの時まではな。だが」
胸、腹の順で、血しぶきが待っていく
「違うというのなら、なぜあの時私を助けなかった。そんな奴の言うことなど聞くわけがなかろうに。アイラック!!!」
「もういいのか」
「ドデカを殺した。急いでここから逃げるわ」
「おうよ。報酬はたんまりあるんだろうな」
「もちろん」
そういいながら、私たち二人は、崩落していく城を後にして、ここから立ち去るのであった。
やばいストックがない