2話
鳥の囀る音が聞こえる。
「んっ、ん~~~っ、ふぅ……」
背伸びが心地いい。こんなに気持ちがいい朝は生まれて初めてだ。心が晴れやかだ。今までとは違うのだと、これから私の人生はスタートするのだと。そう実感した。それくらい、いい気分だ。
「おい」
キッチンに向かい、昨日の晩飯の残りを見る。
「なあ、おい」
あっちゃー。そういや、昨日は何も食べてなかった。そのあと食料保管庫を見る。少ないなあ。こりゃあ、
「やらかしたなあ」
「いや、やらかしたなあ。じゃなくて」
「ねえ、あんた何食べたい? サラダくらいだったら、作ってあげるわよ」
「あ? じゃあ、って違う! お前、さっさとこれはずせ!!!」
「?」
「奴隷契約の因子だよ!!!」
「いやよ」
「なんで!!!」
「なんでって、そのための契約でしょ」
「はあ? 俺は、あの場所から生き残れればよかったの。それを、奴隷因子なんておっかねえのつけやがって。さっさと、解除しやがれってんだ」
「それで、あんたなんであんなことしてたの?」
「おまえなあ。っ……はぁ……追い出されたんだよ。王国から」
「いただきます。どうして? あんた魔王国最強よね。そんな生物兵器じみた立場の人間が追放って」
「いただきます。協調性がねえとのことだ。お前のようなワンマンアーミーはいらねぇと」
「なら、あんたをクビにした私は感謝しなきゃね。それで? なんであんな木箱盗んだのさ」
「金が要るんだよ。実家に仕送りしないといけねーからな」
「だから、あんなとこから盗みに入ったのか。無茶するわね」
「しょうがねーだろ。それしか思いつかなかったんだよ」
「馬鹿ね。あんた」
「バカはお前だろ。あんな奴、殺すことあったか?」
「あいつむかつくのよ。死んでよかったわ」
「げっすいな」
「ごちそうさま。それよりこの木箱何が入ってるのかしら?」
「さあな」
「確認せずに盗んだの?」
「あんなに警護をつけてたんだぞ。そりゃあお宝に決まってんだろ」
「あんた家族が泣くわよ」
「へいへーい。俺は馬鹿だよーだ」
「……それよりこれ開けれる?」
「……だめだ。開けれそうにない」
「じゃあ、どいて」
「あ?」
バ────ン!!!
「……お前何してんだああああああああああ」
「っチッ。思いっきり金槌振ってもあかないとか頑丈すぎるでしょ」
「さっきの言葉そっくりそのまま返すぜ」
「うっせえわ。それより、どうすんだこれ? 金槌でも壊れねーんじゃどうしようもないぞ」
「そうね……我、アザミ・スカイアップ・キングが命ずる。この木箱を破壊しろ。アイラック・オラン」
「は? ちょ、ま、馬鹿、おい、クッ、ソが」
「ふはははははは。抵抗は無駄よ。一日に三回しか使えない代わりに、強力な絶対服従の効果を付与したあなたは、この効果からは逃れられないわ」
「いや、そんなことに2つ目使うとかどうかしてるだ、ろ!!!」
「あっ」
「いや気づいてなかったのかよ」
やっべー忘れてた。まいっか。
そんなことを考えていると、ガシャーンと木箱が物故割れる音がした。
「はあっ、はあっ」
「よかった。中身は壊れてはいないみたいね」
「はぁっ……。で、中には何が入っていたんだ?」
「んーこれね。なにこれ?」
「ああこれ、多分だけど銃ってやつだな」
「じゅう? 数学の?」
「拳銃だよ拳銃。最近北のほうで流行ってるって噂だ。こいつで戦争が、早期決着するくらいの代物だ。威力は大分やべぇぞ」
「へー。物知りね」
「うちの王様珍しいもの大好きだったもんでな。よく一緒に外交の付き添いに出ていたものよ。確か、転生者だっけ? こことは別の世界から来た奴が、作って各国に売ってるそうだぜ」
「へえ、銃ね」
すっげーな。異国にはこんなのもあるんだ。
「あ、ここ動く」
そういいながら真ん中にある穴をのぞき込む。
「おいあぶねえぞ。弾入ってたらどうするんだよ」
「え?」
「たっく、見てらんねえな。預かっとくからかせ」
「えーいいじゃない。ちょっと興味があるのよ。もしかしたら使えそうだし。破壊した木箱、ほかには何が入ってるの?」
「まったく……、あとは説明書と、弾と、マガジンと、くらいか」
「説明書」
「はいはい」
渡してもらったやつを読む。
……ほうほう。構造は、こうなっているのか。これはすごそうだ。なんとなくわかる。
「えーっと、これを、こうして、こう」
バ──ンとものすごく大きい音が鳴る。
「うるっ「何やってんだ馬鹿」
「いでっ」
我、お前のご主人様ぞ。
「家の中でぶっ放すやつがいるか。ただでさえ悪目立ちしちゃいけねーのに何してんだお前」
「だって気になったんだもん!!!」
そういおうとしたところ、ピンポーンとチャイムが鳴る音がした。
「アザミ先輩!? 今の音なんですか!?」
やばっ。
「隠れて」
「わかった」
そういった彼が、きちんと隠れたところを見ると、私はドアを開ける。
「アザミ先輩!? そっちからとてつもない音したっすけど大丈夫ですか?」
「ああ、モモかあ。大丈夫よ。心配ないわ」
「でも」
「ちょっと、魔法の実験してたら失敗しただけだから」
「それならいいっすけど、いやよくないですけど」
「ん?」
「いや時間。そろそろ向かわないと遅刻っすよ」
「あ」
忘れてたああああああああああああああああああああああ。
「はあっ……」
無駄に走った……。いつもならこんな事起こらなかったのになあ……。でも、私は新しく変わるんだから。復讐できる力を得た。なら後は
「水素よ集まり酸素と結合せよ」
「ぶうぇっ」
「はははっ、ぶうぇっですって。ぶうぇっ」
側近どもの、ケタケタした笑い声が聞こえる。アヴェルラか。こいつ、相変わらずくだらないことして。
「ずぶぬれでかわいそうに。火でも、送ってやろうかしら?」
「……」
無視よ無視。馬鹿馬鹿しい。それにしても、こいつわかってやってるからたちが悪いわ。
「やめなさい。名家の名が廃るわよ」
「あなたは」
「学園長……」
「この子は、貧民街から来たお客様みたいなものよ。問題を起こすのはおよしなさい」
「……」
「ちょっとじゃれあっていただけですよ。学園長」
「おやしなさい」
「ちっ、わかりました。ごめんなさいね。アザミ」
そういいながら学園長はミリやり私たちの手をつかませて、
「はいこれで元通り。仲良くしなさいな」
「……チッ」
「……」
「はい。は?」
「「はい」」
昼休み。
学園にある日の当たる高い丘で、私はモモと、飯を食べる。といっても、私は菓子パンだけど。
「うわ。相変わらず災難でしたね」
「ほんと、めんどくさいったらありゃしないわ」
「ほんとあいつは、なんで絡んでくるんですかね。暇なんすかね」
「気に入らないんでしょ私たちが」
「貧民層がそんなに気に入らないんですかね……」
「そういうものよ。貴族って」
「いやな、話っすね。差別的で」
「それより楽しい話をしましょ。最近何かあった?」
「ないっすよ。私は騎士団ですよ。最近会ったことといえば事件だけっす」
「ならそれでいいわ。今は気を紛らわせたいの」
「なら」
話始めるのを小耳にしながらパンを食べる。
「最近というか今日あった出来事っすけど、今日、あの悪徳商人のラン・ポーカーが、貧民街で殺されたらしいんですよね」
「へー。あのラン・ポーカーが」
「うちの連中も結構殺されたみたいで、騎士団長も、血眼で探してるっすね」
「ふーん」
「もう、話せっつったのそっちなのにその反応は何なんっすか?」
「いやちゃんと聞いているわよ」
そういいながら食べ終わる。
「もう、じゃあ、アザミ先輩は最近何かありましたか?」
「え? わたし!? ちょ、最近何かって言われても……」
「今日の爆発音とかあるじゃないですか」
「いや、あれは、その、実験だから。新しい魔法の開発をしていたのよ」
「フーン。だったらいつか見せてくれるんですよね。その魔法」
「ふぇ? ちょ」
「私楽しみにしてるっすよ。じゃあ、私は呼び出し食らったので」
「……まかしとき!!!」
ひきつった笑顔でぐっと親指を立てるのであった。
「やっべーどうしよ」
寮の階段をのぼりながらつぶやく。
あの時は、勢いで、「まかしとき!」とか言ったが。今から考えてとか正直なにも思いつかない。それに、
「本当にどうしよう……」
君はもう来なくていいよ。と書かれた手紙が手紙箱の中に入っていた。
そうだ。今日は確かあのまま帰ったから、仕事をドタキャンしたことになっているのだ。
ため息が出る。でも、今日からは違う。ポジティブに考えないと。だって、
「ただいま」
「おう」
今の私にはこいつがいるから。
「早速、作戦決行にかかるわ」
「早いな」
「あの事件で王国騎士庁の連中が動いてた。なら、全部ばれる前に早めに全部終わらしたい」
「そうかよ。それは罪を重ねるだけだぜ」
「覚悟の上だ。もう、あの頃の情けない自分には戻りたくないからな」
天に指をかざし、覚悟を決める。
「狙うは六人、大魔法使い・アルル、王国騎士団長官・ケーネ、森林の王・ドデカ、氷塊の女王・ヒエン、魔道建築王・ゴールン、わが母上にして、女王・カーネーション・イエローアップ・キング」