絶望からの始まり
一人の男が、へたれるように座り込んでいた。
一人の力無く倒れている女性を、絶望と悲しみの目で見ている。
近くの窓際には、黒い衣服に身を包んだ者が、胴体から血を流していた。
全く動かない様子から、絶命しているのが分かる。
座り込んでいた男は、その暗がりの部屋の中で、倒れている女性のそばを動こうとしない。
時がどれ程、経ったのだろう。
空が薄く青み始めると、男はようやく動いた。女性の背と足に手を回して抱えると、寝台に優しく横たわらせた。
「君を死なせた者は、ぼくが殺した……だけど……」
男は、窓際にある死体の方に向き直る。
「まだ、終わってない」
男は、手を前へかざす。すると、窓際の死体の床に魔法円が浮かぶ。
直後、死体は、炎で燃えると一瞬で塵になるのだった。
「終わってないんだ!」
男は、愛する女性を失った空虚感と悲しみと闘いながら、復讐心を糧に魔術書を読みあさっていた。
年月が経過し、男はまだ、魔術書を読んでいた。これが最後の一冊。
頁を全て読み終えた時、唇を噛み締めつつ、机を強く叩く。
「何故なんだ! この大書庫に、何かがあるはずなのに!」
男は、怒りをぶつける様に、棚の魔術書を床に落としていく。ふと、一冊の本が目につく。
その本は真っ黒で、しっかり紐で縛られていた。
しかも古びていた。
「何だ? この魔術書は……」
男は気になって、その魔術書を手に取る。
埃を払い、次に紐を解いていった。
紐を解くと、ぱらぱらと頁に目を通す。
「この本は……!」
男は驚く。だが、すぐに、不敵な笑みを浮かべた。
「ようやく……」