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第3話 終焉の音の生誕 3

「はい、そうですか。分かりました、はい、ありがとうございます」




玄関から続く暗い廊下の奥で、誰かが電話している。




「おかえりなさい、亮介。今、ちょうど学校から連絡があったわ」




受話器を置き、顔どころか、目もこっちに向けずに、冷たく冷え切った声で僕に話しかける。




「ご、ごめんなさい、母さん…体調が悪くって…で、でも少し休めば治ると思うから、そのあとはすぐに勉強を──」











「そう思うなら、最初から早退するんじゃないわよ!!」




自らの母親の怒鳴り声が家に響き、僕の鼓膜を痛めつける。




「分かっているの?あんたなんかの学費のために私たちが一体どれだけ働いているのか?」


「ご、ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」




気付けば、僕は誤り続けていた。大丈夫だ。全部大丈夫だ。僕がただ耐えていれば、大丈夫なんだから。




「もういいわ。屋根裏に行きなさい。あとはお父さんがなんとしてくれるわ」


「で、でも、母さん、屋根裏は雨漏りが酷くって…今日はのち雨って予報が…」


「あら、ちょうどいいじゃない。私たちの階まで雨が貫通しないようになんとしなさい」




そう言い残し、母さんは自分の部屋に行ってしまった。僕の顔すら見ずに。





僕は仕方なく、言われた通り、屋根裏に向かった。


面積は3畳ほど。電気などは付いていないから薄暗い。


ベットや机、家具一個すらないこの部屋で僕はもう15年以上生活している。いや、あるはもっとかもしれない。物心ついた頃にはここに閉じ込められていた。


寝る時は学校の教科書の上で寝て、寒い冬は自分の舌を噛んだり、爪を剥いで、痛みで寒さを凌いでいた。





ここには時計が無いから、正確な時間は分からないが、体感的に数時間して、玄関が開く音がする。きっと、あの人だろう。




足音がだんだんとこっちに近づいてくる。




ガチャ、




「やぁ、亮介。体調は大丈夫かい?」


「……」




僕は部屋の隅の方に屈んでいた。




「母さんから聞いたぞ、学校を早退したんだってな、父さん、心配したんだぞ…?」




「ほら、そんな怖がらないでくれよ?昨日のことは父さんが悪かったって」




そう言いながら、僕の方にずるずると寄ってくる。




「なあ、ごめんって言っているだろ?なんで無視するんだ?」




ガシッ、




「うっ、!」




喉を両手で掴まれて、持ち上げられる。


息が苦しい。喉の両脇の肉が真ん中に寄り、空気行を圧迫しているが感覚で分かる。頭の上ら辺も真っ白になっていく。




「聞いてるのか?父さんはな、お前にただ幸せになってもらいたいんだ」




また始まった…


うん?この匂い?…あーやっぱりまた吸ったんだなぁ…




「っ…!うぐっ…」


「おっと、すまんすまん、あやあく殺してしまうところだったよ」




ぱっと、離されて、僕は床に倒れ込む。




「ゲホッ!あっ…ゴホッ!」




「幸せになるためには、良い大学に行き、名の知れた人物になって、父さんと母さんの為にたくさんお金を稼がなきゃいけないんだ。それがお前にとっての幸せなんだ。分かるか?」





バン!




「うぐっ!」




腹に猛烈な痛みが走る。そう思う頃にはもう何発も腹を蹴られる。




「おえっ…オェェェェェェェェェェェェェェッェェ!」




10発以上、そこで僕は腹の中に入っていた物を口から吐いてしまった。といっても、固形物は一切無く、全て液体だ。




「おっよかったじゃないか、亮介!これでまたお前の夜飯は出来たな!」


「あなた、あんまりに目立つ所に傷を付けないでくださいね」


「ああ、分かっているさ、気付かれたら色々と面倒だからな」




バン!ドン!




「でも、父さんはまだ少し怒っているだぞ?せっかく心配してきたのに、無視したこと」


「なあ、聞いているのか?…」




バシっ!バコン!




「おい…亮介…無視しないでくれよ…はぁ」




ドン!




「なぁ…!はぁ…はぁ、、亮介!!」




ドン!ドン!ドン!





「あなた、もう気を失っているわ。それにこれ以上やったら、ダメになってしまう」


「はぁ…はぁ…お、おっとそうだな。幸せになれなくなっちゃう。亮介には頑張って天才になって俺たちの自慢の息子になってもらわないと。気持ち良さそうに寝ちゃったみたいだし、そっとしておこう」




「それより、今日も買って来てくれました?」


「もちろん、僕と母さんの分、ちゃんとあるぞ」


「そう、ありがとう。早くあっちに行って、吸いましょう」





ガチャン、





…………………………………












青い空に徐々に雨雲が太陽の光と暖かさを封じ込む。


一羽のカラスが空を駆け行ける。森の方に向かい、一本の木の上に止まり、その羽を休ませる。




カーカー、




「そうか、ご苦労様」





カラスの近くの立ち尽くすある物


黒よりも黒い羽織物が風で荒ぶる。しかし、その顔は決して露わにならない。




女はただ呟くように言った。




「それにしても…






思ってた以上に虫酸が走るな」



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