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第1話 終焉の音の生誕 1

天才とはなにか?




理論物理学者であるアルベルト・アインシュタインはこんな言葉を残している、


「天才とは努力する凡才のことである。」と。ではその上で、問おう。


俗にいう、天才とはなにか?凡人とはなにか?勉強ができ、良い大学に行き、名の知れた人物になるのが人間としての使命なのか?それを成し遂げるために命を使い切るのか?






学校の屋上で空を見上げながら、そんなことを考えてるのは、風見亮介(かざみりょうすけ)東京都に住む、高校三年だ。


少々痩せ型で、平均的な身長。特に目立った特徴はないが、強いて言うなら、両目が隠れそうなくらいに伸びている前髪だ。中にはうっとしいと思う人もいるだろうが、僕はこれでいいんだ。この方が落ち着く。


時間はお昼休み。通常、屋上は立ち入り禁止で鍵がかかっているが、鍵が古いせいかドアノブをある角度で捻ると鍵が開いてしまう。


僕はこの場所を気に入っている。周りには誰もいない、一人の空間。


僕は網にもたれかかり、雲一つない空をただ見上げる。予報ではのち雨、と言われていたが(にわか)に信じがたい。こんなにもいい天気なのに。




「なんか疲れたなぁ」




気づけばそんなことを口にしていた。特に疲れるような運動をした訳でもない。それでも、何を考えるにしても脳がついてこない。もしくはついてくる事自体をやめてるみたいだ。




カァー、




急にそんな音がした。近い。頭を左右に動かし、音の出場所を探す。すると、




一羽のカラスが僕より少し高い網の上に止まっている。普段だったら、たかがカラスで気にしないが、僕はそのカラスが異様に気になっていた。


この世のあらゆる色を混ぜてもなお、出来なそうなくらい真っ黒なカラス。じっと僕の方を見ている。




「な、なんなんだ?、、」




不気味にも感じられる視線。その視線に飲み込まれるように僕もまたカラスを見つめる。


昼の明るい時間なのに、だんだん視野が暗くなっていく、ゆっくりと、ゆっくりと、左右から徐々に黒い靄がかかる。まるで自分の視野の中でカラスを囲おうように。長い間も感じられる一瞬。




(あ、あれ?...意識が...)





その瞬間、





チクッ、





「痛った...!」






突如、左手に痛みが走った。


我に返り、自分の左手に視線を向けた。


手の甲から流血していた。人差し指の方からくるぶしにかけて、3cmくらいの斜めな傷。どこかでひっかいてしまったのか?でもそんな覚えはない。





カァー!




バサッ、




急に大きく鳴き、カラスは勢いよく飛び去ってしまう。




気づいた時にはもうカラスはもう遠くの方に去ってしまっていた。




「珍しいカラスもいるもんだな...それよりも保健室に行くか」




カラスの事は気になるが、今はとりあえず、保健室に行って、傷の手当てをしてもらおう。






保健室にて、




「なにをどうしたら、こんな微妙な怪我をするの?」


「自分でも覚えてなくって、、」




椅子に座り、先生に手当てをしてもらう。


保健の水島京子(みずしまきょうこ)先生だ。


長い黒髪にとても整った顔付き。身に付けている黒縁の眼鏡と真っ白な白衣が更にその美しさを引き立てる。男子の間でも人気な存在だ。


そして、水島先生は僕がよく屋上にいる事を知っている。止めるどころか、誰にもバラさず、よく顔を出しに来て、こんな僕なんかと言葉を交えてくれた。






────


「やっぱりここにいたのね」




いつしかの模試の時、結果を見て絶望していた僕に話しかけてくれたのが水島先生だった。




「そんな模試の結果くらいでくよくよしないの。また次頑張ればいいじゃない?」


「だって僕はみんなよりも頑張って、特別になりたいんです…ならなくっちゃいけないんです…」




「特別かぁ…ねぇ、風見くん?」




「君はね、⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀なのよ?」





あれ、なんだっけ?なんて言われたっけ…思い出せないけど、なぜか心がほんの少し暖かい。けど記憶がない。


あの時、先生は俺に何をー




────





ポン、




「はい、これで大丈夫よ」


「ありがとうございます」




水島先生に軽く手を叩かれ、思い出すのを止めた。


絆創膏では少し長さが足りないので、とりあえず、包帯を巻いてもらった。


本当にどこでした怪我なのか検討もつかない。包帯が巻かれた自分の手を見ながら、そう思っていると、




「そういえば、風見くんは進路どうするの?」


「え、」




胸がきゅっと締め付けられる。


後ろを向き、救急箱の中身を整理しながら、水島先生が聞いてくる。




「え、じゃないでしょう?そろそろ、決めなきゃいけないわよ?」


「あ、はい。なんとなくは決めてます...」




逃げるように、濁すように、僕はそう答えた。





「そう?まぁでもいろいろ大変なことはあると思うけど、あまり思いつめないようにね。私でも全然いいし、頼れる大人はたくさんいるわ」





「はい、ありがとうございます。では失礼します」




保健室のドアを閉め、僕は自分の教室である三年二組に向かう。




「頼れる大人はいる...か」




声に出していたかはわからない。しかし、心の中で、水島先生の言葉には無意識のまま否定してしまう。




なぜなら、僕の近くには、





そんな大人は一人もいない。


だってみんな...









ザー、ザザー、ザー、ザザー、







うっ!





突如と脳に衝撃が走る。頭が熱い?いや、冷たい?それも痛い?


自分でも分からないくらい脳が掻き回される気分。


まるでテレビの中の砂嵐のように、ひどく荒ぶる脳内。




そして、その隙間から断片的に映し出される過去の記憶。





うっ…わあぁぁぁぁあぁあっぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー






初めておもちゃを買ってもらった時、小学校に入学した時、テストでいい点を取って嬉しかった時、転んで痛かった時、悲しかった時、泣いた時、寂しさ、侘しさ、恐れ、怒り、嫌悪、悲痛、不満、絶望、諦念、嘔吐、嗚咽、




交差し、交わり合う記憶の感情たち。


胸が急激に熱くなったり、落ち着いたり、鼓動も上がったり、下がったりして心臓が破裂しそうだ。





「亮介ー、一緒にあぞbiurVdG」「なんであなたは1fFりAlたhぇW!」「お前にはみらIC53c5OaゃjB」「少uIgI一Kni年、t09ther?き6Lbたtb」「あなたは私TMでmHQc5sありません」「なんでmhくぇdhじょgd?」「父さんはな、dっひcqdwchぼべdgdb」





ぶつかり合う、言葉たち。


記憶の中での言葉が混ざり合い、それぞれの声が重なり、不吉な電子音のように聞こえる。




凄まじい情報量で脳がパンクしそうだ。






一体、なんだこれは?






ザー!ザザー!ザー!ザザー!





「もっと天才な子が生まれればよかったのに」「なんのためにあんたを生んだと思っている?」「この無能が」「お前には幸せになってほしいんだ」「こないだ、父さんが悪かった」





重なり合っていた声たちが、今度ははっきりと聞こえる。





「早く消えてほしいのに」「父さんの為に頑張ってくれ」





やめろ、、、





「あんたなんて...」





その言葉だけは...





「あんたなんて...」





怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


誰か助け―






「産まなきゃよかったわ」






――――――――――――――――っ!





声にならない叫び。


そう、僕は知っている。本当に苦しい時や悲しい時には、人間は声を出せない。







容赦なく襲い掛かる過去の記憶。心の奥深くにとどめたかった言葉たち。


寄り添える思い出なんて何一つとして―













「亮介!私と一緒に遊ぼ!」













はっ...!


す、涼菜(すずな)?...





......











ザー、





ザザー、、




ザー、





ザ、、、ザ、、





..........






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