ー8-
夢は
夢で終わらなかった
「いやああああーーーー!!」
桜が叫んだ瞬間。
[ウギャアアアアア!!]
目の前がオレンジ色になった。
ドサッという音と共に桜も座り込んだ。
もがき続ける生徒はオレンジ色の炎に包まれている。
「これ…夢と同じ…?」
呆然と見つめる。
オレンジ色の炎はだんだん弱くなっていく。それと同時に角や牙、爪が消えていく。
炎が消えるとそこには告白してきた生徒が倒れている。
「嘘…なんで」
信じられてないように震える桜。
オレンジ色の炎が消えた後には普通の“人”が倒れている。
それはまさに夢と同じだった。
「あれは…現実?」
ギュッと左腕を掴む。ズキンッとした痛みとヌルッとした感触。
「どれが現実なの…?」
「大丈夫?」
後ろから声がして桜はビクッと体を震わせた。そしてゆっくり振り返ると…。
「た、だよし…?」
自分のよく知る幼馴染が立っていた。
しかし、その雰囲気は桜が知っている忠吉ではなかった。
「怪我…してるね。すぐに手当しないと。立てる?」
スッと手を伸ばしてきた忠吉に桜は後ずさりをした。
「桜?」
「なんなの…何がおきたの?あなたは誰!?」
全てを受け入れなくなってしまった桜に忠吉は内心ため息をつく。
「桜、落ち着いて」
「落ち着いていられないわよ!急に昔の夢を見始めたと思ったら夢と記憶が違って!
不安になってる時にこんな目に遭うし!!」
ボロボロ涙を流す桜。それは両親の葬式以来の涙だった。
忠吉は目を見張るが、すぐに目を伏せた。
「もう…やだ」
力なく呟いた。もう全てが嫌だというかのように。
その時、頭にフワッと温かさを感じた。
「大丈夫、大丈夫だから」
忠吉が桜の頭を撫でたのだ。昔、忠吉が泣いていた時に桜がしていた。
それを今、忠吉がしているのだ。
「(…あ、忠吉だ)」
安心できる温かさ、優しさ。
桜は自然と落ち着きを取り戻した。
「…落ち着いた?」
忠吉の問いかけにコクンと頷く桜。忠吉はホッとした笑みで手を差し出した。
桜はその手を掴んで立ち上がった。
「傷、痛むでしょ?」
「あ…うん」
弱々しく頷くと忠吉は桜の腕にハンカチを巻きつけた。
「いいよ!汚れちゃう!」
「悪化される方が俺が困るんだけど」
忠吉の苦笑に桜は黙った。
町のとある廃業した病院跡。
忠吉に連れられて桜はそこにいた。
「(こんなところに…何があるの?)」
中に入り、一番奥のドアの前で止まる。
忠吉はそのドアノブに何かをかざした。
するとカチャッと音がした。忠吉がドアノブに手をかけて回すとドアが開いた。
「…!!」
そこには地下に続く階段があった。
「これ…」
「降りるよ」
忠吉の言葉に頷く。2人の足音だけが響く。
しばらく降りると再びドアが見えた。
今度は何もしないでドアを開ける。眩しい電球の光が入ってきた。
「…え?」
そこは広い部屋だった。そして自分の知る人達がいた。
「た…つや、水谷君…?」
片手を上げる剛と目を逸らす達也。
その奥には忠吉と達也の両親。
「おじさんとおばさん達まで…どうして」
「それより先に手当しましょう」
奈々が手を取って近くのソファーに座らせた。
あらかじめ用意してあったのか、救急箱が置かれていた。
「腕、出して」
奈々に言われるままに左腕を出す。
出血は止まったが、傷は深い。
「こんな…痛かったでしょ?…怖かったわね」
ギュッと抱きしめられた瞬間、緊張の糸が切れた。
「う…わ、こわ、かった…!!」
ギュッとしがみついて泣き出す桜。奈々は服が汚れるのを気にしないで抱きしめた。
「もう大丈夫よ」
「う、っつあ」
大泣きする桜を他のメンバーは悲しそうに見つめていた。
桜も落ち着き、手当も終わった。
忠吉は桜の向かい側に座った。
ソファーの後ろには達也と剛が立っている。
まるで忠吉を護衛しているかのように。
「桜、全てを話すよ」
口を開いた忠吉は公園での忠吉だった。いつのも優しさはなく、冷静な忠吉。
「まず、夢のことだ。両親の死に方が教えてもらったのと違ったんじゃない?」
忠吉の言葉に驚く。その夢については誰にも言っていなかったのだ。
「なんで知って…」
「桜の様子を見ればわかるよ。その夢について結論から言うよ」
不安が溢れてきた。聞きたくない言葉を聞きそうで。
「その夢は…現実にあったことだよ」
-夢は“真実”を見せていた-