-7-
人は欲望を持つ
それ故に鬼と化す
午前0時。桜は眠れないでいた。
「(眠れない…)」
ふと外を見ると綺麗な星空が広がっていた。
「…外、出てみようかな」
そう呟くと服を着替えて窓から飛び降りた。
両親を亡くしてからは止めてしまった夜の散歩。
今日は何も起こらないようにと願いながら歩く。
「キレー…」
見上げた星たちはその存在を主張するように輝いている。
『僕がお星様取ってきてあげるよ!』
一瞬よぎった記憶。幼い男の子が自分に言った言葉。
顔は思い出せないが、同い年だった気がする。
「あの子…元気かな」
目を細めてポツリと呟く。懐かしさと微笑ましさで自然と笑顔になる。
視界に看板が目に入った。
〈神木公園〉
「…大丈夫、大丈夫だから」
自分に言い聞かせるように呟いて歩を進めた。
いつもは小さな子供たちで賑わっている公園も夜中だと静けさしかない。
静かすぎて怖く感じるほどだ。
数歩進んでから夢の場所を見る。
「(あそこが…)」
足を一度止めたが、その場所へと動かした。
そこは昔と違い、ゲートボール場となっていた。
「ここでお父さんとお母さんが…?」
しゃがんでそっと地面に触れる。サラサラとした砂が指につく。
血の海と倒れた両親。それを思い出すと逃げ出したくなる。
「…本当はどっちなの?」
ポツリと呟いた時。
[シュー…シュー…]
聞いたことがある音と人影。
桜はバッと顔をあげた。
「…!!」
そこには1人の人間がいた。しかし、その人は人間としてはありえないものを持っていた。
鋭い牙と角、そして長い爪。
「あ…」
夢と同じモノが目の前に現れた。桜は思考が止まる。
[オ…レノ…モノ]
ユラリと近づいてくるのと同時に後ろに下がる。
[ダレニモ…ワタ…サナイ…!!]
バッと飛びかかってきたのを後ろに飛んで避ける。
「(殺される)」
桜はそれしか考えられなかった。
そして公園の遊具の方へ逃げた。
[ニガ…サ…ナイ]
後を追うようにバッと飛んだ。
「(なんで…あれは…)」
桜は木の陰に隠れた。呼吸を整える。
「(夢に出てきたのと同じ…でもあの人)」
2日前に告白してきた生徒を思い出す。さっきのはその生徒にそっくりだった。
ギュッと自分の体を抱きしめる。
「(なんなの…なんなの一体!?)」
泣きそうになるのを堪えていた時、隠れていた木が斜めに倒れてきた。
「!!」
なんとか避けてジャングルジムの上まで飛ぶ。倒れた木の奥にはさっきの生徒。
長い爪で木を切ったのだろう。
「嘘…」
呆然としていると自分の上に影ができた。
[ニガサ…ナイ]
「…!!」
スレスレで避ける。キィンッとおとが響くのと同時に左腕に痛みが走った。
「っつ…」
[ガ…ウガ…]
見ると服に血が染みていた。ジャングルジムでは爪が隙間に挟まったのか、抜けないらしい。
「(今のうち…!!)」
駆け出した瞬間。
[オレ…ノ、モノ…ダ…!!]
バキッという音と共に叫び声が聞こえた。
振り向くと生徒が飛びかかってきた。
挟まった爪は折ったようだ。
襲いかかる人でないヒト。叫ぶ母。倒れる父。そしてー…。
「いやああああーーーー!!」
-人は己の欲望の為に人を傷つけるー