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届かぬ想いは
嫉妬という名の炎をつける
告白された2日後。図書館に行く度に桜は視線を感じた。
「(…やめてほしい)」
ため息をつくと、急に頭に重力がかかった。
「?!」
「なーにため息ついてんだ?」
「…水谷君」
桜はしかめっ面をする。頭に腕を乗せてきたのは剛だった。
あれから剛は桜を見かけると声をかけてくるようになった。
正直、桜はそれがあまり好きでなかった。
「その腕、早く退けて」
「いーじゃねーかよ」
「重くてしょうがないの」
ちえっと言いながら剛は腕をどかした。
桜は髪を整える。
「楠木って噂とは違うのな」
「は?」
眉間に皺がよるのが自分でもわかった。剛はクックックと笑いながら手を頭の後ろに回した。
「だってよ、噂の楠木は優しくて、穏やかで、まさに女神ー聖母マリアだって聞いたから」
「そんなの勝手に言われてるだけだから。私、そんなにいい人間じゃないわよ。むしろ嫌な人間」
そう言いながら桜はふと気づいた。
「(私、この人の前だとキツイ人間になってる?)」
ジッと剛を見る。黒い短髪にスラッとした長身。整った顔に明るい性格。
普通なら惚れてもいいような人間だ。実際、剛にはファンクラブがあるほどだ。
「(…いかにも、って感じだから嫌なのかしら)」
「ん?どうした?」
「…別に」
フイッと顔を横に向けた。剛はクックックと笑う。
「マジおもしれー」
「…あ、そ」
スタスタと歩き出した桜の後を追う剛。
「何怒ってるんだよー」
「怒ってない」
急にグンッと腕を引っ張られて、後ろを見ると剛の真剣な顔が目の前にあった。
ドキンッと胸が鳴る
「な、に」
「俺…楠木に嫌われてる?」
悲しそうな顔をした剛に桜は戸惑ったが、剛の目を見る。
「…本当に」
「え?」
「本当に嫌いなら、まず私に触れさせないから」
フイッと横を向いた桜の耳がほのかに赤い。
剛はキョトンッとしてからニカッと笑った。
「やっぱ訂正」
「?」
「楠木、優しい奴だな」
「…もう知らない」
スタスタと歩き出す桜の隣を剛が歩く。
その顔は本当に嬉しそうだった。
「お前、水谷って奴と付き合い出したのか?」
1ヶ月ぶりに学校に来た達也と話していた時、急にそんなことを言われた。
桜は驚いた顔をして頭をブンブンと横に振った。
「そんなわけないよ!なんで!?」
「クラスの女子が騒いでたんだよ。最近、桜と水谷が仲良いから付き合ってるんじゃないかって」
桜はすごく迷惑そうな顔をしてため息をついた。
「確かに最近知り合ったけど、そんなことないから。…そういの迷惑」
達也は苦笑して桜の頭を撫でた。
「ま、お前モテるからそう言われてもしょーがねんじゃね?」
「止めてよ。そう言われるの嫌いって知ってるでしょ」
桜が睨むと達也は悪い、と謝った。
「桜、最近D組の水谷といること多いね」
その日の夜、颯太と遊んでいたら忠吉にも言われた。
「いるんじゃくて、向こうが引っ付いてくるの」
桜がため息をつく。忠吉は苦笑する。
「桜、モテるからなあ」
「忠吉までそんなこと言うの?止めてよ」
うんざりした顔で言う桜に忠吉あはは、と笑う。
「ごめんごめん、ついね」
「もー。あれ?忠吉、水谷君と仲良いの?」
そう聞くと忠吉の顔が少し強張った気がした。
「(?)」
「仲良いどころか、話したこともないよ。でも有名人じゃない?野球部で活躍してるし」
「へー…」
桜は不思議に思いつつ、再び颯太と遊び始めた。
2人を見る忠吉の目はいつもの忠吉ではなかった。
まるで全てを知っている目をしていた。
同時刻。とある公園で1人の男がベンチに座っていた。
男は俯きながら考えていた。
「(楠木さんと水谷…付き合ってるのか?)」
最近仲のいい2人。そんな噂さえ立っている。
「(本当にそうなら…)」
悶々とそんなことを考えていた。そして…
[サクラハ…オレノ…モノ]
また一匹のオニが生まれた。
-嫉妬という名の炎は“オニ”を生む-
ツンデレって可愛いですよね。