ー4ー
自分の知らない事
それは不安を掻き立たせる。
オレンジ色の空が暗くなりかけた頃、意識が戻ってきた。
ボンヤリとしているうちに寝てしまったらしい。
目を開ければもうクラスメイトはいなかった。
桜は重たい頭を上げると教室には自分一人。
外は夕日色に染まり、夜が少し見えていた。
「…疲れたな」
ため息をつきながら机に倒れた。
「早く帰ろう」
桜は重たい体を持ち上げてカバンを持って教室を後にした。
靴を履き替えて校舎を出る。校庭や校舎から部活の活動音が聞こえてくる。
桜は校門に向かって歩き出した。すると何かを感じ、しゃがんだ瞬間。
バンッ!!
「…野球ボール?」
自分の上に飛んできたのは野球ボールだった。
ボールは木に当たって転々と転がる。
それを拾い上げると飛んできた方向から声がした。
「スミマセーン!!怪我無いですか!?」
タッタッタと軽快な足音がする。桜がその方向を見ると知った顔が走ってきた。
「…あ」
「お、楠木じゃん」
走ってきた人物は数日前にぶつかってきた男子だった。桜は怪訝な顔をした。
「何で名前知って…?」
「だって有名人じゃん。“1年C組の楠木桜は女神”って」
男子の言葉に呆れる。自分は女神なんかじゃないと大声で言いたい。
盛大なため息をつくと男子は苦笑した。
「そうだよな。そんな風に言われたくないよな」
「わかってるなら否定してよ」
桜がそう言うと男子はあははっと笑った。手に持っていたボールを渡す。
「楠木って面白いな!」
「…どうも」
嫌気がしている桜に男子は頭を撫でた。
「!?」
「俺、1年D組の水谷剛!よろしくな!」
「あ…うん。よろしく」
髪を直しながら桜は頷く。剛は嬉しそうに笑った。
その笑顔に桜は眉をひそめた。
「?どうし「何で」
剛はその瞳に宿る光に戸惑った。それは希望の見えない深い闇の光。
「何で嘘の笑顔なの?」
「…!!」
目を見開き、ポツリと呟く。
「やっぱり…な」
「?」
その後、剛は部員に呼ばれて戻って行った。
その晩、桜は写真立てに入った写真を見た。
家族みんなで撮った最後の写真。
「…あれが、本当の記憶なの?」
コツンッと頭を窓にくっつける。
両親は事故で死んだはず。だけど夢の記憶は違うものだった。
人間だが、人間でない生き物。自分を庇って倒れた両親。
オレンジの炎に包まれたモノ。そして広がるは血の海と息をしていない両親。
「ーーーー!!」
ギュッと目をつぶる。深呼吸をして落ち着かせる。
「私…私が…?」
震える体を抱きしめる。
「どれが…本当なの?」
呟いた言葉に更に不安が増す。暗い夜の闇に飲み込まれそうなった。
真実を隠す闇に…。
同時刻。
とある場所でいつくかの人影があった。
「お前、勝手に動きすぎだ」
「ん?そうか?」
「明らかにおかしいだろ」
イライラした声とどこか抜けた声。建物と建物を飛び越えていく。
「普段いないだろ。あんなところに」
「いやあ、早く話してみたくってさ」
「余計に悪いだろ!!”アレ”が出ちまったら…!!」
「もう遅い」
静かな声が遮る。2つの影は声の主を見る。
「すでに出ている。しかも毎日だ」
「くっ…」
「…」
悲しそうな声と悔しそうな声が響く。
「とにかく今は…」
影は立ち止まると下にいる人を見た。
いや、正しくは”ヒトのかたち”をした生き物
「こいつを…消す」
ー消せない不安は闇を生み出すー