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ー2ー

目を覚ます


夢の光景はなく


ただ寂しさだけが広がる



青い空、暖かな気候。桜色に染まっていた木もハラハラと花びらが散っている。

桜はその様子を窓から見ていた。日本史がビデオが流れているC組は大半が昼の気候に負けて顔を伏せている。

「(…またあの夢見た)」

あの日ー両親との最後の会話の夢を見た日から毎日のように

昔の夢を見ている。しかも毎日違う夢を。

「(なんでかな)」

はあ、とため息をつくと同時にチャイムが鳴った。


昼休み、桜は職員室を大量のノートと共に出た。

日直の仕事で次の授業までに返却しておくように言われた。

「(重い…)」

ギリギリ見える廊下を見ながら歩く。

時々、人にぶつかりそうになる。

「(なんで今日に限って休んでるのよ…)」

休んでいるもう一人の日直に心の中で文句を言う。

なんとか階段まで来てため息をつく。

「(でも足元見えるからまだいいかな)」

そう思い、慎重に階段を上がっていく。踊場を曲がって再び上がり、上まで着いた。

桜がホッとした時、誰かの肩が当たった。

「えっ」

グラッと体が傾く。ノートがバサバサッと落ちる音がする。

「(やばい)」

宙に浮く感覚、受け身を取ろうと体を動かした瞬間、手を掴まれ引っ張られた。

「?!」

ドサッと大きな音を立てて桜は前のめりに倒れた。しかし痛みは感じない。

下の方でノートの落ちる音がした。

「…え?」

「大丈夫か?」

顔を上げると心配そうに桜を見ている男子の顔が映った。

「…あ、はい。なんとか」

「そっか、よかった。悪い、余所見してたから」

ニッと笑うその男子をぼんやりと見ていると、自分の今の体制を理解する。

男子の上にいる、つまり桜が被さっているのだ。

しかも男子の手はしっかりと桜を抱きしめている。

「あ、の?!離して…!!」

桜が少し慌てて言うと男子生徒は思い出したように手を離した。

「悪い悪い」

「…ありがとうございます」

離れてから桜はお礼を言う。すると男子はニッと笑った。

桜は階段の下を見てため息をついた。階段には散らばったノート。

諦めたように近くのノートを拾い始める。

「(授業間に合うかな…)」

そう思っているとスッとノートを拾う手が見えた。

見ると、さっきの男子が拾っていた。

「あ…いいです」

「いいから!二人でやった方がラクだろ?」

その笑顔に苦笑する。二人で拾うと言葉通り、すぐに終わった。

桜は全てのノートを持って男子にお礼を言う。

「ありがとうございます」

「いいって!ぶつかった俺も悪いし」

「手伝ってくれ他ので…じゃあ」

数歩歩いたところで手の重さが軽くなった。

「え?」

「こんな重いもん、一人で持つもんじゃねーよ。俺も持ってく」

「いいです!私大丈夫…」

「じゃ、肩ぶつけたお詫び」

「でも拾ってもらった…」

桜が渋っていると男子が苦笑した。

「なんつーか…俺がしたいからさ。気にすんな」

「でも…」

「いいから!じゃあ俺にも持たせてくんね?」

「…」

桜は渋々頷く。3分の2のノートを持って男子は歩き出した。

桜はため息をついた。


C組の前に着くと桜は男子を見た。

「教室はここです。ありがとうございました」

「中まで持ってくぜ?」

「ここまでくれば大丈夫です」

微笑む桜に男子はそっか、と笑った。ノートを桜に返すと桜も笑った。

「それじゃ」

「…変な人」

そう呟きながら教卓にノートを置いた。

「桜」

その時、忠吉の声がした。

「忠吉。どうしたの?」

「現国の教科書貸してくれない?忘れちゃってさ」

「あらあら。待ってて」

くすくす笑う桜は教科書を取りに行った。

「…」

忠吉は桜の背中を見つめる。

「…まだ”その時”ではない」

ポツリとつぶやく。その言葉は誰に聞かれるでもなく消えた。


ー新たな出会いは新たな運命に繋がるー

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