ー1ー
『行ってくるね』
『明日は遊園地に連れってやるからな!』
『うん!!行ってらっしゃい!!』
それが最後の会話だった。
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コンコンッとドアをノックする音で目を覚ます。
「(ー…朝)」
体を起こす。カーテンの隙間から光が射す。
「…夢」
最後に交わした会話。でも次に帰ってきた両親はー…。
コンコンッと再びノック音がする。ハッとしてみると颯太がいた。
「桜姉、起きた?」
「うん、起きたよ。おはよ」
「おはよう!ご飯の用意できたって!早くきてね!」
「わかった。すぐ行くね」
颯太は嬉しそうに笑って部屋を出て行った。
桜は体をベットから離し、服を着替えようとクローゼットを開けた。
リビングに行くと、いい匂いが広がっていた。
「おはよう。桜ちゃん」
「おはよう、おばちゃん」
挨拶をしてテーブルに着くとバタバタと階段を降りる音がした。
入り口を見ると、幼馴染の日向忠吉がネクタイを締めながら入ってきた。
「おはよう、忠吉」
「おはよう!…って桜がまだ食べてない?時間は?」
「まだ余裕よ」
そう言うと忠吉はポカーンッとした。桜は苦笑する。
「さ、食べましょう!」
忠吉の母親、奈々の言葉で全員でいただきます、と声を揃えた。
楠木桜15歳、高校1年生。
両親を亡くし、幼馴染の日向忠吉の家に居候をしている。
「桜、どうかした?」
学校に向かう途中、忠吉に言われた。桜は首を傾げる。
「なんか少し沈んでるから…」
「…やっぱり忠吉には隠せないか」
そう眉を下げると桜は少し俯いた。
「夢を…見たの」
「夢?」
「うん。お母さんとお父さん…2人との最後の会話の夢」
忠吉は息を飲んだ。周りには自分達と同じ制服を着た生徒が歩いている。
ただ、そこだけ空気が違った。
「なんでかわからないけど…出てきたんだ夢に」
あの時はあの日常が変わらないと思っていた
両親がいて、お兄ちゃんがいてー…
「…なんで、かな。もう大丈夫だと思ってたんだけど」
そこまで言って桜はハッとする。忠吉を見ると真顔で桜を見ていた。
「ごめんね、気使わせたっぽいね」
「いや、俺から聞いたから…こっちこそごめん」
「いいよ!ほら行こう!遅刻しちゃう」
そう言って歩き出した桜の背中を見つめる忠吉。
その背中はあの時ー桜の両親の葬式と同じだった。
「…4年か」
呟いた忠吉の顔は後悔で一杯だった。遠くで予鈴のチャイムが響いていた。
上西高校、そこが2人が通う学校。
1年生の階に着くとざわついていた。2人は首を傾げる。
人混みをかき分けると桜(C組)と忠吉(A組)の教室の間、つまりB組に集まっていた。
「なんだろ?」
「よく見えない…あ」
桜は背伸びをして中を覗くと金髪に染めた生徒が席に座っていた。
「あれって…桜」
「うん!ちょっと行ってくる」
桜はB組に入り、金髪生徒に近づいた。
「達也!おはよ」
「…おう、おはよ」
金髪生徒ー桜のもう1人の幼馴染の土崎達也はダルそうに答えた。
桜は苦笑する。
「珍しいね、学校来るなんて」
「るせー、ほっとけ」
プイッと顔を横に向ける。桜はふふっと笑う。
「(本当は私の心配してくれてるんだよね)」
桜が両親を亡くしてから達也は必ず1ヶ月に1回は桜に会うようにしているのを知っていた。
本人はバレていないと思っているが桜は前々から感じていた。
「達也、ありがとう」
「…何がだよ」
「わかってるくせに」
桜の顔に顔を赤くする。
「それにしても、お前、毎回俺に話しかけない方がいいんじゃねーの?」
「なんで?」
桜が首を傾げると達也はため息をついた。
「俺といると色々言われっぞ」
達也は学校1の不良と恐れられている。
なのでいつも話しかけてくる桜が何か言われていると思ったのだ。
「そんなの知らないよ。私は達也の幼馴染だもん。幼馴染と話すことが悪いことなの?」
そう言う桜に達也はため息をついた。
「ったく…」
ニコニコ笑う桜に参った様に、でも嬉しそうな達也を見て忠吉は自分の教室に入り、席に着いた。
窓側の席なので空がよく見える。
「(あんないい子なのに…)」
忠吉は悲しそうに目を閉じた。
そしてB組の廊下から2人の様子を見ていた人物がもう1人。
「…本当にあいつも丸めるんだな」
そう呟くと口角を上げて、自分の教室に戻って行った。
B組ではいまだに桜達は話していた。桜の顔は嬉しそうだった。
ー夢は彼女の運命を暗示していたー