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ー10ー

悲しみは


大空へと広がる



ボンヤリと青い空を眺める。

桜は家か少し離れた大きな公園にいた。

ベンチに座って空を見上げていた。


『桜は“木の守護者”の後継者なんだ』


昨夜、忠吉に言われたことが頭をかける。

『般鬼から守る為に神西町には5人の守護者がいるんだ。木、火、土、金、水』

ペラッと捲られたページには5つのマークを繋げた星のマーク。

いわゆる五行思想の形。

その中心には太陽と月が重なったマーク。

『そしてそれらを全てまとめるのが空。つまりおさだ。

この6人は神西町を守る義務があるんだ。それは6つの家系の人間によって継がれる』

『その一つが…ウチなの?』

桜の疑問に頷く忠吉。桜は頭がついていかなかった。

自分が知らされていなかった家系の秘密。

『本当は12歳になったら後継者に話す決まりなんだけど…

桜はおじさん達のことがあったから話せなかったんだ』

忠吉はすまなそうな顔をした。

『そう…なんだ』

『…ごめん』

『え?』

忠吉が謝る。桜は首を傾げる。

『どうして忠吉が謝るの?』

『ごめん…桜』

忠吉は謝るだけだった。


「(どうして忠吉は謝ってきたんだろう)」

空を見上げながら思った。全てを包み込む大空。

その表情は晴れたり、曇ったり、泣いたり。

そんなことを思っていた時、頬に急に冷たさを感じた。

「!?」

バッと後ろを見ると、目の前に缶があった。

「え…紅茶?」

「驚いたか?」

上を見るとニカッと笑っている剛がいた。桜は目を見開くが、ため息をつく。

「なんだよ」

「別に。何の用?」

「特にないけどよ、楠木がいるのが見えたから。あったかいのと冷たいのどっちがいい?」

「…じゃあ、あったかいの」

ほい、と渡された紅茶はちょうどいい温かさだった。

隣に座ってきた剛の手には同じ紅茶。気を利かせて両方買ったらしい。

「ありがとう」

「おう」

カシュッとプルタブを開ける音が聞こえた。

桜もカシュッと開け、口をつけた。

流れ込んでくる紅茶で冷えていた体が温まるのがわかる。

「…昨日のこと、大丈夫か?」

剛の言葉に体が固くなる。それがわかったのか、剛は苦笑いした。

「そうだよな。そんなすぐに受け入れられないよな」

「…受け入れられないわけじゃないわよ。おかしいとは思ってた。

両親が夜中に出かけてるなんて」

桜の言葉に剛はそっか、と答える。

「ただ…悲しかっただけ」

両親の死が違っていたこと。その死は自分が招いてしまったということ。

「私のせいで…」

「忠吉が後悔してたぜ」

剛の言葉に頭を上げる。剛は複雑そうな顔をしていた。

「なんで…」

「“桜を悲しませてしまった”って」

桜は目を見開く。

剛は缶の淵を指で撫でる。

「悲しませたって…忠吉は何も」

「真実をさ、楠木に話して…両親の本当の死と自分の家系に隠れてた真実に戸惑いと不安にさせて」

『何もかも隠していたことに桜は悲しむ。桜は優しくていい子だから』

忠吉の言葉に桜は正面を見る。

目の前には芝生の広場が広がっており、芝生の上で遊ぶ子ども達。

その姿は幼い頃の自分と忠吉に見えた。

「…優しいのは忠吉の方だよ。自分のことじゃないのに後悔して悲しんでくれる」

剛は桜の横顔を見た。

悲しそうに、でも忠吉の優しさに嬉しそうに微笑む桜に剛は見とれていた。

「羨ましいな。お互いにそうやって分かり合えて」

剛の言葉に桜は目を伏せた。

「小さい時から一緒にいるからね」

『だいじょうぶだよ!さくら!ぼくとあそぼ!』

『桜、大丈夫だよ。1人じゃない』

変わらない優しさに微笑む桜。ふわっと優しい風が吹いた。


-全てを知っていた空は優しく暖かい-

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