ー9-
どこから夢で
どこから現実なのか
『その夢は…現実にあったことだよ』
忠吉の言葉に拒絶と納得が同時に出てきた。
そんな事起きていない、そんなはずがないという自分とやっぱりという自分。
「桜…大丈夫?」
忠吉の心配そうな声で顔を上げる。見ると後ろの2人も心配そうに見ていた。
「ん…大丈夫。…達也も心配してくれるんだね」
苦笑して言うと達也は眉間に皺を寄せた。
「当たり前だろ!!…あん時のお前を知ってんだから」
達也の言葉に目線を再び自分の手に戻す。
「…そうだね。ありがとう。水谷君も」
笑顔で顔を上げるが、その笑顔は忠吉達には痛々しいものだった。
無理して笑う、それは桜にとっては普通になってしまったモノ。
人に心配させない為に、自分を隠す為に。
“悲しみ”を知られたくないが故の笑顔。
忠吉と達也はそれを知っていた。
「…話、続けるよ」
頷く桜。その顔はもう全てを諦めているようだった。
「桜が夢で見たことは真実だ。おじさんとおばさんは事故で死んだんじゃなく、
般鬼によって殺された」
「はんき…?」
聞いたことない言葉に首を傾げる。
「お前がさっき見たやつだ。人間だが、人間でない。角と牙、長い爪が生えた人間が生み出す鬼」
達也が桜に説明をする。桜はハッとする。
角と牙、長い爪。それはまさに鬼。
「…でも、どうして?」
「桜は般若って知ってるよね?」
「あの…能に使うお面だっけ?」
桜の言葉に頷く忠吉。忠吉が剛の方を見ると、剛は本棚に近づく。
そして一冊の古い本を取り出した。
「般若は元はおたふくだったんだ」
「おたふくって…あの笑顔のお面?」
「そう。いつも幸せって顔したやつ。ほら、これだ」
剛があるページを見せる。そこにはおたふくのお面が描かれていた。
「どうしてこれが般若になるの?」
忠吉を見る。忠吉は本に目を落とす。
「おたふくには恋人がいたんだ。でもその恋人は他の女のところに行った」
そこまで言って桜の眉間に皺ができるのがわかった。忠吉は苦笑する。
「最低…」
「そうだね。でもとりあえず聞いて。おたふくはそれを知ってしまったんだ。
そこからは怒りと嫉妬で満ちてしまった。
そして笑顔だった顔はだんだん醜いものになって…最終的には鬼になってしまった。
それが般若だ」
忠吉がペラペラとページをめくっていく。
おたふくがだんだん般若になっていく顔が並んでいた。
「般若ーそれは怒りと嫉妬で生まれた鬼」
「怒りと…嫉妬」
裏切られた女が生み出してしまった鬼。
「(でも…怒りと嫉妬だけじゃない気がする)」
裏切られた悲しみと鬼になってしまった悲しみも感じた。
「そして般鬼は嫉妬から生み出される鬼なんだ」
忠吉の言葉にハッとする。
「嫉妬から生み出された鬼…それって」
「そう、般若と同じなんだ。自分の想いが通じない、好きな人が他の人と付き合ってしまうのではないか、
そんな気持ちが人を鬼にさせる。般若と同じ鬼だから俺たちは般鬼と呼んでいるんだ」
嫉妬故に生まれる鬼ー般鬼。桜は納得した。
自分を襲ってきた鬼も元は告白してきた男子生徒だった。
それに達也から聞いた噂。
自分と剛が付き合っているのではないか、それを聞いたのだろう。
諦められない想いと取られてしまった敗北感が彼を鬼にしたのだろう。
「…その般鬼がお父さんとお母さんを」
グッと拳を握る。夢に出てきたのは、さっき自分が見た般鬼と同じだった。
忠吉は黙って頷いた。
「でも…なんで?なんでお父さんとお母さんはあの般鬼と戦っていたの?」
「それは2人は“守護者”だったからだ」
「守護者…?」
「そうこの神西町を守る為の守護者。そして…」
忠吉は何かを机に置いた。それは忠吉が先ほどドアにかざしたのと同じ物。
緑の石に「木」の文字が彫られたネックレス。
「桜は…その後継者だよ」
「え…?」
-その輝く石は少女を夢から覚ます-