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遅刻のち、始まり

『間もなく、〇〇駅──間もなく、〇〇駅──』



いつもと変わらぬ朝。


スーツを着た人々は、皆生気の無い顔でだらだらと歩を進めていく。


対照的に、学生達は皆スマホに目を向け、また曇りなき笑顔で友達と話し合っている。


新入生が入学してまだ3ヶ月しか経っていないが、既に仲良しグループはできており、彼等にはこの先楽しい青春が待っているのだろう。



(この電車を1年間見守っていた者として、俺がお前達の青春を見届けてやろう。)


(ま、その青春も続けばいいのだけどな。例えばあの女の子2人...。



実はロングヘアの子はとある暗殺集団のスパイで、ショートヘアの子をとある目的で殺害する為に接触し隙を伺っていたが、日々を過ごしていく内に今まで感じた事が無かった感情に気づいていく。日に日にその思いは大きくなっていき、彼女達はお互いの事を『親友』だと認識しあう。だが時は残酷であり、暗殺集団から一刻も早くの始末を命じられたA子ロングヘアB子ショートヘアに本当の自分の正体を告白する。そして、その話を聞いたB子が取った行動とは─────)



「...しもーし、あのー、もしもし?」


「...んっ?アッお、俺ですか...?」


(き、急になんだ婆さん!俺の電車内唯一の楽しみである妄想の邪魔を─)


「さっきからずっと呼んでたんですけどねぇ...貴方、あの高校の生徒でしょう?」


「...あ。」


「もう3駅ぐらい通り過ぎちゃいましたけど、学校の前に行く所でも?」


(ま...


またやってしまったぁぁぁぁ!!!)



─────────────────────────



俺の名前は『古宮 響』。


少し妄想癖がある高校生2年生だ。そしてコミュ障である。


(突然だが、皆さんは『コミュ障』という言葉を知っているだろうか。

無いと言う人はほぼ居ないだろう。他人とのコミュニケーションが苦手という人を見ると、「あ、コミュ障だ」とパッと浮かぶほどこのネット社会では浸透していると思われる。


勘違いしないで欲しいのは、コミュニケーションが嫌だという訳では無い。


ただ、コミュニケーションが苦手なだけなのだ。

ただそれだけは分かって欲しい─)


と、俺古宮響が心の声で解説しました。



───────────────────────────



◆街中◆


ダダダダダ...



(くっそー!また乗り過ごしてしまった!

今月もう何回目だよ!また生徒指導室に呼び出されるー!!)



俺のこの妄想癖は昔からだった。授業中とか、ふとした時にボケーっと考えてしまう。よく親や先生に怒られたものだ。

最近は特にひどく、気付いたら妄想しているんだ。

まぁ、俺が悪いのだけれど...。



「はぁ、はぁ...!」



既に一時限目は始まっているが、学校はまだ遠い。

けど、つ、疲れた...やはり部活をしてなかったら体力無くなっちまうぜ...。



走り疲れてトボトボと歩いていると、突如黒いベンツが俺の横の路側帯に止まった。

運転席を見てみると、いかつい顔をした爺さんが俺の事を睨んでいる。


やばい、目が合ってしまった。ヤ、ヤーさん...?見てない振り見てない振り...



「おーい、古宮くん」



聞いた事がある声が後ろからしたので振り返ると、あの黒いベンツの後部座席にクラスメイトの戸松が乗っていた。ま、まさか!



「と、戸松...攫われてんの...?」



「いやいや、これは俺の家の自家用車だよ。運転してるのは俺の爺やさ」


「あ、す、すいません!くぁwせdrftgyふじこlp」



失礼すぎた!と思い頭が真っ白になってしまう。テンパるのなんて、いつもの事なんだけどな。



「ははは、爺やもよくそっち側だって間違われるから大丈夫だよ。それより─」



後部座席が自動で開き、戸松が席を奥に詰める。



「乗ってく?」



───────────────────────────



◆車内◆



「あ、ありがとう...」


「いいんだって。古宮君、遅れてたんでしょ?学校に」


「おぅ...と、戸松は...?」


「...まぁ、俺も寝坊しちゃってさ。」


「そうか...」



戸松とまつ 海弥かいや』は俺のクラスメイト。高校が始まって1ヶ月後に転校してきた。


誰にでも優しく、平等に接している出来すぎた人間。

身長は高く、顔もそこらでは見ないレベルのイケメン。髪が若干赤みがかっているが、地毛らしい。


スポーツ万能、成績優秀。そのルックスや性格も相まって、男女や学年も問わずに慕われている。


2年間彼とは一緒のクラスだったが、彼が失敗等をしている所なんて見た事無かった。


そんな彼だが、最近では遅刻や欠席が目立つようになっていた。風の噂によると、極道の息子で、跡継ぎを行なっているんじゃないかと言われている...らしい。(盗み聞き談)



「...」


「〜♪」


「......」


「〜♪」



(き、気まずい!な、なんか話題を見つけないと!ジョークかなんか言っておくか!?)


「ねぇ」



窓際を見ていた戸松から不意に声を掛けられたので、声が出ず戸松の方を見た。



「君には、夢とかあるの?」



夢...?突然踏み込んだ質問してきたな。うーむ、俺の夢は─



「えと...今は無い、かな」


「...どうして?」



ど、どうしてって言われても...この先の事なんてあまり考えた事無いんだよな〜、妄想はしょっちゅうするけど。



「これから先どうなるかとか分からなくて、さ。皆決まってて凄いな〜、なんて...」



よし、ここで話を広げるんだ!戸松の夢を聞き返すんだ!



「...戸松はn「そっか、分かった。」



...被ってしまった。ま、また気まずい空気が───────







「...ごめんね。」







(...え?)






戸松が小さく何か呟いたが、よく聞こえなかった。

というか、外の景色がさっきまで街中だった筈なのに、いつの間にか薄暗い森の中になっている。



「と、戸松!ここ学校の道じゃ─、じ、爺やさん!」



運転席を見ると、車の前方は崖になっており、このまま行くと崖から落ちてしまう。爺やさんは何を考えているのか、更にスピードを上げていく。



「ちょ、ちょっと──戸松!冗談だろ!?」




戸松は相変わらず窓の外を見つめており、この事態を受け入れている様な──そんな気がした。



大怪我を覚悟で車から飛び出そうとしたが、何故かドアが開けられない。



(くそっ、こうなったら...!)



俺は運転席に乗り込み、ブレーキを掛けようとした。

が、爺やの片腕で運転席に行くのを止められる。凄いパワーで、どんなに力を入れてもぴくりともしない。



崖はもうすぐそこまで迫ってきていた。



「あ、あんた達何が目的なんだよ!なんで俺を──」



グイッッ!



突如、爺やに胸ぐらを掴まれ、爺やの顔が迫ってくる。








『覚悟を決めろ!!この物語は、他の誰でも無い!!お前自身が『終わらせる』んだ!!!』







訳が分からなかった。その時は、何を言っているのか、全く理解出来なかった。




「う...」



目線を前に戻すと、車は既に宙を舞っていて────




「うわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




崖下の地面が目の前に見えた。




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