8話 大型犬を洗う心で
「じゃあ先にあたしの背中をボディーソープであわあわごしごししてくださいね」
風呂用の凹みたいな形の椅子に、やや大きめなお尻を乗せて少女は背中をさらけ出した。
背後からでも彼女の胸の膨らみが、脇の下からたわわな南半球となってはみ出している。
ほどよく引き締まりながらもぽってりとした肉付きの臀部を、少し突き出すような格好で少女は首だけこちらに向けた。
「前は自分で洗えますからご心配なく」
グッと握った拳の親指を立て、キメ顔で仕事できます的なアピールをするクレスに、俺のマジックワンドは穏やかな気持ちを取り戻した。
まるで波一つ立たぬ鏡のような水面のごとく。
いかに肉体的にエロくとも、それに見合う中身というか雰囲気が伴わなければ、まるで子供をお風呂に入れているかのような感覚になってしまうのだ。
海綿で液状石けんを泡立て彼女の背中にそっと触れる。
「ひゃん! ちょ! くすぐったいからもっとゆっくりお願いします!」
「う、うるせえ! 妙な声あげんじゃねえええ!」
鎮まれ俺のマジックワンド。
ごしごしと大型犬でも洗うつもりで、俺は彼女の背中を流した。
脇の下から腰のなだらかなラインをなぞり、尻を丸く海綿で撫でる。
「ふああぁ……なんだか気持ちいいです。今度はあたしが気持ちよくしてあげますね!」
攻守交代とばかりに、回り込むと彼女も俺の背中を海綿でこすりあげる。
「お前もう少し丁寧にやれよ!」
「あれ? 結構手は抜いてるんですけど痛かったですか?」
「手とか抜くとか言うんじゃねぇ! わざとか!?」
「技は使ってないですよ? そもそもお風呂に技とか奥義ってあるんです? はい、じゃあ流しま~す」
シャワーでさっと背中を流し、お互い背を向けたまま前を洗う。
「一緒に入りますよドルテさん。ほらほら、遠慮なさらずに」
肩を並べてお湯に浸かると、二人分の体積で浴槽から湯が溢れ出た。
そして――
彼女の胸がぷかぁっと温かい水面に浮き上がる。
まるで海中を漂うクラゲのようだ。
「それじゃあ百まで数えて温まりましょうね。あたしが二十まで数えるので残りはドルテさんが数えてください」
「なんでそうなる。せめて半分の五十で交代だろうに」
彼女は得意げに胸を張った。水面に浮かんだ双丘の島が波打つ。
「人には得意不得意があるんですよ。ほら、ドルテさん数字に強いみたいだし」
「お前が弱すぎるんだよ!」
「じゃあ、がんばって三十まで数えるので、あとでご褒美にあたしの髪を洗ってくださいね?」
「譲歩したフリやめろ」
「いきますよ~! いーち、にー、さーん、しー、ごー………………ろーく!」
なんだ今の間は。五の倍数を数え終わると一時停止するのか。
ともあれ、クレスはマイペースに三十まで数えきると「ご褒美があると人間がんばれるものなんですね!」と、目をキラキラさせた。
残りを俺が数える間、クレスは「好きな食べ物ってなんですか? 辛い食べ物って身体を痛めつけることで脳内麻薬を出せるから、中毒性があるんですよ」やら「猫ってどうしてあんなに可愛いんですかね? うちの実家には犬がいるんです」など、質問やら豆知識やら個人情報などが、二転三転しながら飛んできた。
相づちを打ったり答えたりしつつ、百数える頃にはすっかり身体も温まっていた。
「じゃあ髪洗ってください!」
「じゃあってなんだよ」
ざっぱーっと風呂から出て椅子にかけると、こちらに背を向けたままクレスは楽しげに身体を左右に揺らす。
彼女の背中がわくわくとリズミカルに傾く度に、水蜜桃の南半球がぷるんぷるんと揺れた。
「はやくはやく!」
「へいへい。わかりましたよッ! こういうのしたことないから、どうなっても知らんぞ!」
「怖がらなくても大丈夫ですよ? 優しくしてくれればいいんです。あ! ドルテさん最初からずっと優しかったから、普通でいいかも」
優しくしてやった覚えなどない。
「ったく……お前には負けるよ」
先ほど背中を流した時は海綿を使ったが、今度は彼女の身体に直接触れることになる。
背中や頭に柔らかいスライム的膨らみを押しつけられた時点で、恥ずかしがるのもおかしな話だが、自ら能動的に女の身体をまさぐることになろうとは。
俺は理性ともども、大魔導師への転職条件を失ってしまうのだろうか。