7話 うなるな! 俺のマジックワンド
「濡れた服のままだと風邪引くんで、脱げる時に脱いだ方が健康にいいんですよ?」
「のしかかるな!」
スッと彼女は身を引いたかと思うと――
「はい、じゃあ、あたしがヌギヌギしてあげますね!」
トウモロコシの皮を剥くように、クレスは俺の上着をスポッと剥ぎ取った。
「うおわあああああああああああああ!」
「早く下も脱いでズボンと下着を乾かさないと」
「お前に羞恥心はないのか!?」
「しゅうちしんってなんですか?」
恐る恐る振り返るとクレスは仔犬のように純真な眼差しで首を傾げた。
こいつ……マジかよ。
「ち、ちなみにクレスさんはその……おいくつですか?」
少女は視線を手元に落とすと指を折って数えだす。
「えっといちにーさんしー……十五、十六歳!」
「自分の年齢数えて言って良いのは三歳までだ!」
「そんなことないですよ? あたしの故郷じゃわりと普通です」
それ絶対にこいつだけだろ。
「なあクレス……もしかしてお前、アホの子すぎて追放されたんじゃないだろうな?」
「そんなわけないじゃないですか。まあ、なんか100年くらい帰ってくるなとは言われましたけど」
追放されてるのに気づいてなーい!
クレスは悪意もなく良いやつだ。無邪気で純粋すぎるくらいだ。
人なつっこくて初対面の俺にさえ、距離感を限界いっぱいにまで詰めてくる。
残念なくらい人を信じすぎて、モンスター退治の上前をピンハネされてしまったんだろう。
そして今、彼女は頼れるものもなく一人ぼっちだ。
同じくぼっちになった俺に哀れまれる筋合いもないか。
「そんなことよりお風呂にお湯を入れましょう。で、どうやるんですこれ? あ! もしかして知らないんですか?」
「赤い印のついた方の栓をひねるんだ。やってみろ」
「はーい! うわドジャーって出た! すごいすごーい! お湯ですよこれ! すごくないですか? これならあっという間にお風呂に入れますねドルテさん」
「お、おう。良かったな」
「もちろん一緒に入るんですよ?」
浴場に白い湯気がもんわりと満ちていく。
「背中の流しっこもしましょうね! あ! お風呂の床になんだかちょっと固めのスライムみたいなマットが敷いてありますよ?」
「あ、ああ。うむ。それはその……転倒時の怪我防止のやつだ」
「大変ですドルテさん! このボディーソープ海藻のヌメヌメエキスみたいで全然泡立たなくて、なんだかヌルヌルするんですけど!」
「保湿剤だ」
「だから足下つるつるして滑りやすいんで、安全マットが敷いてあったんですね」
なにこの構文みたいなやりとり。
「ヌルヌルをマットにびゅーってしうつ伏せで滑ったら、すべすべぷるぷるでヌルヌルして楽しい気分になってきました」
どうしてだんだんと正解の使い方に近づいていくんだお前はあああああ!
「お湯が浴槽いっぱいになりましたし、さっそく肩までつかってあったまりましょう! 二人入っても余裕ですよ! ズボン脱げます?」
「脱げるからヌルヌルしたまま近づくんじゃねええええ!」
「うちの故郷だとそれフリっていうんですよ」
海藻ローションでヌルヌルになった彼女の胸が、俺の背中に直接ぴたりと吸い付いて上下した。
「お前の国ではそうやって背中を流すのか!?」
「え? 違いますけど? なに急に言い出してるんですか? 背中を流す時はボディーソープ使いますよ普通。じゃ、ぬがしまーす」
背後からベルトに手を掛けるな!
ええいままよ。
こうして――
俺はクレスに言われるままズボンを脱いだ。
下半身に血が集まって自前のマジックワンドが暴発寸前だ。
もはや俺の童貞もここまでか。そう覚悟していたのだが……。