6話 対人距離感がくるっとる!
「さあ着きました! 古城を改築したみたいで良い雰囲気ですよ! もしかしたら人気の宿なのかも。ああ、どうか部屋が空いてますように。今日のあたしたちって、持ってると思うんで、予約なしでもきっといけるはずです!」
「本当に入るのか?」
恐る恐る訊いた途端、少女の身体が大きく揺れた。
胸もここぞとばかりに大揺れだ。
「ンクシュンッ! ディクシッ! ディクシッ! は、早くお風呂で温まりましょうよドルテさん!」
「お、おおおおおう!」
これはあくまで緊急避難的な措置なのだ。
元気に明るく振る舞ってはいるものの、クレスの手は氷のように冷たかった。
彼女を休ませねばならない。
二人でなけなしの所持金を全額フロントに前払いして、俺たちはようやく雨風をしのげる場所の確保に成功した。
男女がとある共通の目的をもって利用する施設――逢い引き宿も宿には違いないのである。
◆
フロントで鍵を渡されて部屋に入る。
甘いココナッツのような香りが鼻孔をかすめた。
照明は落ち着いた光量だが、薄桃色だ。
部屋には二人がけのソファーとローテーブル。奥にクイーンサイズのベッドがあった。マクラが二つ並んでいる。
壁の一面を覆い尽くすように鏡が張られていた。
「わああ! なんか可愛い色の照明ですね! 結構綺麗な感じだし当たりじゃないですか?」
「冒険者宿よりかなり豪華な作りだが、正直初めてなんで俺も善し悪しが判断できん」
俺の腕を抱くようにして二の腕に大ぶりな胸の谷間に押しつけ、挟むようにしながらクレスは顔を上げた。
うっ……濡れているからか彼女のぴっちりした服のせいか……しっとりした柔らかさが伝わってくる。
「なにかと比較しなくってもいいんですよ。今、感じたことがすべてですって」
俺が感じているのは誰かさんの胸の柔らかさだけだよ! もう部屋の内装とか雰囲気とか、頭の中からぶっ飛んでいっちまったよ!
い、いかん。冷静になれ。
「奥に扉がありますよ? ちょっと偵察してきますね」
ウサギが跳ねるようにクレスは扉を開くと「きゃああああ!」と悲鳴を上げた。
「だ、大丈夫かクレス!」
駆け寄ると少女がプルプルと肩を震えさせて振り返る。
「み、見てください! 大きな浴槽! これ、一緒にお風呂入れますって!」
言いながら目の前で少女はアームガードとすね当てを外した。
そして――
「ほら、風邪引く前にお風呂入っちゃいましょう!」
俺の目の前でぴっちりとした服を、ずるんと剥くように一気に脱ぐ。
水蜜桃がぷるんとみずみずしい果肉のように飛び出した。
ツンと上向きな先端はほんのり桜色をしている。
適度に引き締まった腹筋とくびれたウエストのさらに下には――
これ以上はやばい。
「お、おい脱ぐなら脱ぐって言え! あと、先にシャワー浴びてこいよ俺は外で待ってるから」
いや違うんだ。その台詞は誤解を招く。ああもう、俺、さっきから何言ってんだよ。
こんなんだから童貞って言われるんだちくしょう。
顔を手で覆い、少女に背を向けその場でしゃがみ込む。
なにか別の事を考えよう。
文明は川沿いに発展する。耕作に適しており船を使った運輸にも河川は大活躍である。治水によって氾濫を防ぎその恩恵を以下略。
その一方で、大きな河川が近くにあるわけでもない辺境都市ラディアは、古代魔導文明の遺跡を再利用して栄えた町だった。
文明の利器が発達しまくっているのである。
蛇口をひねればお湯が出た。
魔法万歳。魔導器万歳……。
クレスがこちらにやってきて、しゃがんだままの俺の頭の上にふよんと二つ、柔らかいものが乗っかった。
あああああっ! こいつの対人距離感どうなってんのおおおおおッ!