34話 滅殺! 女の敵!
慌ててベラドンナがジェイドの隣に駆け寄った。
「アンタの負けだよジェイド。ほら……ええと……ドルテに謝ろう……ね?」
「うぅうあああああああああああああがああああああはああああ!」
涙混じりの鼻声絶叫で言葉にならないジェイドだが、代わって交渉役はベラドンナにバトンタッチしたようだ。
「ね、ねえドルテ! また昔みたいに組まない? なんだかんだでアタシらってさ、戦闘の相性ばっちりだったじゃん?」
「言いたいことはそれだけか?」
「も、もちろんリーダーはアンタだよ! ジェイドに文句は言わせないし……じ、実はアタシね、ずっと前からアンタのこと、知的でクールでいいなって思っててさ……」
立ち上がりベラドンナが俺にガチ恋距離まで迫ろうとした刹那――
「我が主に雌の匂いを振りまいて近づくな売女が」
悲惨なジェイド一行に自分も身をやつすイメージプレイで興奮していたネプトゥが、ベラドンナの前に立ち塞がった。
「な、なによこのガキ!?」
クレスも剣に手をかける。
「えーと、よくわからないし初対面だけど本能的にあなたが嫌いです。殺す」
おいおいおいおいおい! やめろってば。
「二人とも大丈夫だ。俺は籠絡されたりなんてしないから」
ベラドンナの視線が険しくなった。
「べ、別にアタシは誘惑なんてしてないし。っていうかこの二人はさっきからなんなの? ドルテとどういう関係なわけ?」
クレスがその場で背中を流すジェスチャーをしてみせた。
「ドルテさんとは一緒のお風呂で背中を流し合った間柄です」
事実だけど! 確かにそういうことはありましたが、冒険者の集まるギルドで言うことか!
なぜか冒険者たちから「いいぞいいぞー!」「おめでとう!」「お似合いなんじゃね」と、祝福の声が上がり拍手まで巻き起こった。
さらにネプトゥがベラドンナを追撃する。
「我はこの野獣眼鏡によって身動きもとれぬようにされて、一方的に熱いもので突き上げられ身を焦がされたのだ。首にはほれ、このように服従の証までしておるぅ……はぁん! みんなに知られちゃったぁ! もうみんな我を慰みものとしかみられぬようになっちゃたぁん♡」
竹製の轡かボールギャグでも常時装備させてやろうか軟骨魚類ッ!
ギャラリーたちの反応は――
「やべえぇやべぇよ」
「モンスター幼女姦とかマジ鬼畜かよ」
「やっぱただ者じゃねぇな」
「きっと隻眼のファイアドレイクも喰っちまうつもりだったんだぜ」
「童貞なのは人間相手だけだったか」
「幻滅しましたドルテさんのファンやめます;;」
これはあとで誤解を解くために飲み会を開く必要があるな。
再発防止もかねてネプトゥにはクレス以上の教育が必要だろう。
二人の少女がベラドンナに迫って圧をかける。
「ドルテさんは、わたしとネプトゥちゃんで割と手一杯ですからお引き取りください」
「眼鏡君がいじめても許されるのは我だけだ!」
クレスとネプトゥ――タイプは違うがともに口さえ閉じていれば絶世の美少女である。
まあ、人を外見で判断するのはよろしくないが、醜悪な本性が顔にまで出たベラドンナの相手なんぞ、もとよりするつもりはない。
おびえた顔でベラドンナが俺に助けを求めるように、媚びた視線を送ってきた。
「ね、ねぇドルテ! アタシら仲間だよね? この二人はちょっと誤解してるんだよね。アンタから言ってやってくんないかい? あ! なんならさ、アタシだけでもそっちに入れておくれよ!」
嗚咽混じりで床につっぷすジェイドを捨てるように、ベラドンナが立ち上がった。
「テクニックには自信あるし、なんでもするからさぁ? いいだろ?」
妖しく指をうごめかせるベラドンナ。男に取り入り媚びて後ろから操作する腕だけは一流で、シーフとしての彼女は二流もいいところだ。
クレスがビシッと挙手をした。
「ドルテさん会議です! この人を仲間にするかどうか多数決で決めましょう。仲間にしちゃダメだと思う人は挙手を!」
「我も我も!」
二人が手を上げた時点で俺が何か言うまでもなく加入は否決である。
ネプトゥがフフンと鼻で嗤った。
「人間の雌よ。残念だったな。貴様の今後のご活躍をお祈りいたしますだぞ」
「ふ、ふ、ふざけるんじゃないわよ! テイミングモンスターのくせに!」
まあ、俺もネプトゥ相手にわりとやりたい放題なところはあるが、本来なら彼女は人間に使役されるようなモンスターではない。
瞬間――
「イキがるなブス……」
ネプトゥの氷よりも冷たい威圧的な視線がベラドンナに突き刺さった。
彼女はへなへなと腰砕けになり、床にぺたんと尻餅をつく。
終わったな……。




