33話 ざ~こ♡ ざ~こ♡ お前の言い分スッカスカ!
ギャラリーたちが凍り付く中、以前、俺に護符を作ってくれたクラフターが一歩前に出てジェイドに告げる。
「やあ、久しぶりだね」
「お! おう! なんだやっとノリの良いやつに会えたぜ! 飯おごってくれよ腹ぺこでやばいんだよ」
「うーん、僕は君とは同席したくないかな。ところで君が以前に広めていたドルテさんの噂だけど、あれって嘘だったよね。とても優秀な魔導士じゃないか」
ジェイドの後ろでトニオが首がもげる勢いでうんうんと頷いた。
今更である。気づかずジェイドはクラフターに吠え返す。
「はぁ? な、なんだよおい? 別に嘘じゃねぇし。まあ、多少の誇張はあったかもしれないけどよ。それより喉が渇いてるんだ。飯じゃなきゃ酒でもいいぞ!」
「しつこい男は嫌われるよ? いいかい……ドルテ君はとても優秀で判断力のある魔導士だ。僕だけじゃなく、彼と一緒にコラボしたパーティーからも、指示の的確さやアイテムの使用タイミングの絶妙さについて、素晴らしいって何度も聞かされたよ。本当は攻撃魔法が得意なのに、自分が指揮をしないとパーティー全体の力を引き出せないって考えて、司令塔を買って出てくれてた……ってね」
おいおいおい褒めすぎだぞ。いや、まあ評価してもらえるのはありがたいけど。
俺はただ、クレスが戦いやすくなるよう整えているだけにすぎない。
ジェイドの顔が耳まで真っ赤になった。
「なに買収してんだよぉ! 陰湿すぎんぞ陰キャ眼鏡!」
クラフターは「あーあ、こりゃダメそうだね」と、俺に「ご愁傷様」的な笑みを浮かべて、冒険者の一団に戻っていった。
ジェイドが吠える。
「みんな騙されんじゃねぇぞ! ドルテって男は俺らを騙して王都に追放したんだ!」
言ってることが無茶苦茶だ。
ギャラリーたちがざわつき始めた。
「あれでラディアの元トップ10ランカーなんて嘘みたいだよなぁ」
「王都の競争は激しいって聞くけど、それを承知でラディアを捨てたんだよね?」
「だっさ! 草も生えん」
「今ってたしかドルテ氏とクレス氏のペアがトップ10でござるよな」
「おい忍者だからって語尾にござるはないだろ。ん? ってことはアレか、トップ10ランカーだったのって、やっぱドルテが有能だったからじゃん」
「しかも大物を倒したら宴会まで開いてくれるしな。あれから俺の手首はクルックルよ」
「ん~! どうしてこんな逸材チェックできてなかったんやろ~! クレスちゃんいなきゃアタックしてたしぃ~!」
ギルド内の雰囲気は、完全に俺を擁護に回っていた。
かつて噂を広めて俺を孤立させていた連中が、今や少数派である。
ジェイドが俺の顔を指さして吠えた。
「しゃ、借金漬けのおまえが御大尽できるわきゃねぇだろ!」
俺はクイッと眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。
「いやぁ相棒が優秀すぎてな。お前もこの町で活動してたんだから、隻眼のファイアドレイクの名前くらいは知ってるだろ」
ジェイドだけでなく、ベラドンナもトニオも表情を凍てつかせた。ずっと無言の隻腕グスタフが声を上げる。
「ば、バカな! あの化け物をやったのかッ!?」
野太い声に俺は腕組みをして胸を張る。
「やったのは俺じゃないが、いろいろあって倒すのを手伝ったんだ」
「じゃあ、ラディアのトップ10を維持してるってのは……マジかよ」
あのグスタフが唖然とする様を見ることになるとは、人生何が起こるかわからない。
ジェイドが頭をかきむしる。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だあああああああ! 勇者はおれだおめぇじゃねええええ!」
そのままジェイドは膝から崩れ堕ち床に手を突いた。
「別に土下座しろとか言ってないんだが?」
俺が悪人なら遠慮無く踏むのにちょうど良い高さの頭を、靴底でぐりぐりとやっているところだ。




