31話 メンバーの2/3がやばいパーティー爆☆誕
クレスは仕事の最終報告に入った。
「それからギルドでテイミング装備も借りてきました! 指輪とかネックレスとかピアスとかより、こっちの方がいいかなって思って。あっ! 今、わたしの事、気が利くなぁって感心しませんでしたか?」
ここでクレスさんのオリジナルチャート発動。
彼女が借りてきたのは大型犬タイプのモンスター用テイミングアイテム――首輪だった。
ネプトゥが興奮し始める。
「な、な、なんという屈辱! この海王たる我に飼い犬になれと!? 可愛く着飾った我を辱める手腕……小娘よ……貴様をあなどっていたことをここに謝罪しよう!」
「ネプトゥちゃん気に入ってくれたんですね! やりましたドルテさん! わたしって仕事ができる女なんですよ。いや、天才ですからねぇできて当たり前というか、それ以上のことを成し遂げるんです」
成し遂げてねぇよやらかしてんだよ!
しかもネプトゥもネプトゥでクレスを気に入りやがって。
キマシの塔でも建てるつもりか。
俺には百合の間に挟まりたいなんていう無粋な趣味はねぇからな。
「Fooo! Fooo! 首輪Fooo!!」
「Yeah!Yeah! 首輪Yeah!!」
二人そろってノリノリである。
変人と変態だから成立してるんだぞ。仕事できてないぞクレスさんや。
クレスとの謎の交信を終えると、ネプトゥが俺に飛びかかるようにひっついてきた。
「はよう! はよう首輪をして我を貴様のモノにしてモノ扱いしてモノはモノらしくしてモノにも穴はあるんだよなぁ!? してくれてもいいんだからね! はやくしてくんなきゃ悪い子になっちゃうぞ?」
ハァハァすんな! 肌から分泌する保湿成分で内ももをぬらすんじゃねええええ!
このまま放置していては、床に妖しい粘液水たまりができてしまう。
「あーわかったわかった! ええとテイミング契約するぞ。俺が解放するかお前か俺のどっちかが死ぬまで、契約は続くからな。何かあったらお前を殺せる首輪だ」
「い、命まで握られるのか! いずれ母なる海を支配し生命の母となる我を! ど、どうだ……興奮してきたか眼鏡くん? 貴様は果たして最後まで我と添い遂げられるかな?」
ギザ歯を光らせサメ幼女はニヤリと笑う。挑戦的な口調だ。デコピンくらいしてやろうか。
いや、暴力はこいつを喜ばせるだけだったな……。
「そのお喋りな口をフライドチキンで塞いでやろうか魚介類」
「貴様のソーセージでも構わないぞ?」
即座にクレスが反応した。
「えっ!? ずるいですよドルテさん! ソーセージ隠し持ってるなんて!」
「話がややこしくなるからやめーや。あと、サメは少し黙れ……すぞ」
「は、はいいいいいん! だまりましゅうう! らからぁ誓いの首輪をぉ……ね?」
ウインクすんなポンコツ軟骨大海王。
ひとまず同意を得たということで……いいよな? 若干不安になりながらも、俺は幼女に大型犬用の首輪型テイミング装備を装着した。
はたから見れば全裸マント幼女に首輪をつけているというシチュエーション。
やっていることが犯罪じみている。
「苦しくないか?」
「あっ……や、優しくするな! けど、ちょっと緩めて……」
穴一つ分余裕を作るとネプトゥは「うむちょうど良い」と嬉しそうに頷いた。
首輪についた宝玉が光り、これにて契約完了である。
ネプトゥは首輪に触れると「もう貴様から逃れられぬのだな……」と、ポッと頬を赤らめてんじゃねぇよサメえええええええ!
しかし、こいつに協力すればいずれ海底遺跡への道も開ける……かもしれない。
俺としては大変魅力的な条件だ。
ええい、もうどうにでもな~れ~♪
「あ、あのドルテさん!」
首輪をつけ終えたところで、クレスが自身の人差し指をさびしそうにおしゃぶりしてからうつむいた。
「どうしたクレス? 幼女に首輪をつけるのは犯罪ですとか、正論突きでもするつもりか?」
クレスはもじもじと膝を擦りながら俺に向けて、もう一つ首輪を見せる。
「ネプトゥちゃんだけずるいので、わたしにもつけてくれませんか?」
「すぐにギルドに返してらっしゃいッ!!」
「ええッ!? だめなんですか! ネプトゥちゃんとおそろいのペア首輪!」
「お前はモンスターじゃないだろ。しっかりしてくれクレスさんや」
「いっそのこと、しっかりしてクレスさんって省略してみても良いんじゃ無いですかドルテさん?」
「どうでもいいところに食いつくんじゃねえええ!」
俺の服の袖をネプトゥがちょいちょいと引っ張る。
「服など着ずに裸で首輪の方が良いとは思わぬか、こちら側の住人たる眼鏡男子よ」
こいつは是が非でも俺にロリコンロードを歩ませたいらしい。
拒めばどんな痴態で俺を脅迫するか、わかったものではない。
「あーうんそうね。ほら! あれだ! 着てないと脱がせられないだろ」
途端にネプトゥが目を丸くする。
「そうか! そうであったな! 小娘よ! 貴様の用意した服とやらをありがたく着てやろう」
はいあほの子~ネプトゥの操縦法がわかってきたかもしれない。
幼女は自ら率先してピンクのフリフリドレスを着る。
首元のごつい大型犬用首輪の存在感が浮きまくりだ。
クレスが手にしたままの首輪に視線を落として口をとがらせた。
「いいなぁ……カッコイイなぁ首輪って……」
かわいいロリ服好きながら首輪は首輪でカッコイイっていう女剣士の審美眼の基準……これがわからない。
「ねえドルテさん? やっぱり試しにつけてみてくれませんか? モンスター用だから装備できないってこともないですよね? 一度だけでいいですから! ちょっと! ほんの少しさわりのところまででいいんで! ね! やってみましょうよ! 挑戦するだけの価値があると思いますよ?」
「試さんぞ。諦めろクレス」
「ううぅ……人生ってままならないですね」
首輪をつけてもらいたいだけの人生だった……って、あるかそんな人生ッ!!
最強女剣士と元海王の多頭飼いブリーダーになんかなる気はねぇからな!
◆
やっと人間らしい外見になったネプトゥを連れてラディアの町に入る。
彼女の首輪を見て「本当にモンスターなの?」と、驚く住人もいたのだが、ともあれ問題無く連れ歩くことができた。
ギルドに戻ってクレスが自分用にと借りてきた首輪を返すと――
「ハァ……ハァ……やっと……戻ってきたぜ我がマイホームタウン! みんな、おれらがいなくて寂しかったろ? 帰ってきてやったぜ!」
振り返ると――
ボロ布を纏った物乞いのような格好の青年が、王の帰還とでも言わんばかりに声を上げていた。
後ろに同じく、服の形をギリギリ成しているボロ着姿の三人の姿もある。
俺を追放しチャラそうな魔導士をパーティーに招き入れ、王都の籍を移したはずのジェイドたちだった。
おまたせ……待った?




